テクニカルノート

LIBS(レーザー誘起破壊分光法)用 新型・コンパクト・高繰り返しレーザー

2019年 11月19日

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レーザー誘起破壊分光法(LIBS)は、金属、半導体、ガラス、生物組織、プラスチック、土壌、薄膜コーティング、電子部品などの幅広い材料を高速で化学分析することができる原子発光分光法である。LIBS技術により、オンラインでの材料分析を現場で行うことができるツールとして、さらに小型化・携帯型化したシステムが開発されており、その結果、この技術は近年大きな注目を集めている。このようなシステムの開発は、レーザー、分光器、CCDカメラといった、より小型の産業用のシステム部品が入手できるようになったことで可能になっている。本アプリケーションノートでは、繰り返し周波数がマルチkHzの新型・コンパクトレーザーがどのようにLIBSシステムにおける設置面積の大幅削減を実現しているのかを紹介する。

LIBS技術とアプリケーション

LIBS技術では、ターゲットとなる材料の表面に高強度レーザーを集光し、材料を蒸発させプラズマを発生させる。生成過程の初期段階におけるプラズマの温度は極めて高温(> 100,000K)であるため、蒸発された物質は励起された原子とイオンで解離させ、冷却の過程で特徴的な原子輝線を分光器で検出することができる。この手法により、原則としてあらゆる種類の物質(固体、液体、気体)を高速かつ高感度で化学分析することが可能だ。通常、検出下限は重金属元素に対して低ppmレベルである。この手法は、測定対象となる試料の前処理は不要であり、除去対象物の除去も少量で済むので、基本的に非破壊検査であるともされている。さらにLIBSの他の利点として、深さ方向の濃度分布を測定(デプスプロファイルという)し、試料表面の汚れを除去できることが挙げられる。

LIBSは、金属含有量の分析、太陽電池用シリコンの品質管理(不純物分析)、植物や土壌の分析、鉱山発掘、法医学や生物医学の研究、爆発物や生物兵器の検知など、科学分析から産業分析まで幅広い分野のアプリケーションに対応できる魅力的な技術である。
特に興味深いのは、廃棄物処理施設や製造工場(アルミニウムや鉄など)にて金属スクラップのオンライン分析や選別を行うためのツールとしての可能性だ、製造工程で生じた金属スクラップの選別がより高精度に向上すれば、より多くの効率的なリサイクルが可能になり、金属製造業における「エコロジカル・フットプリント」(人間が自然環境にどの程度依存しているかを示す指標)の削減にもつながる。

レーザー光源、分光器、CCDカメラを用いたLIBS実験の典型的な実験配置図を図1に示す。

図1:種類の異なる光学装置を組み合わせて試料に集光した際の概略図

LIBSに適したレーザー

低繰り返し周波数(~10Hz)・フラッシュランプ励起・Nd(元素記号): YAG Qスイッチレーザー(波長:1064nm)は、10 – 100mJの高パルスエネルギー及び 4 – 5 ns の短パルス幅を有することから、長年にわたってLIBSにおける標準的な励起光源として用いられてきたが、これらのレーザー光源は大型で消費電力が高いという欠点があり、産業用のオンラインアプリケーションでLIBSを使用するには大きな規制要因であった。

さらに最近では、mJクラスの40nsよりもわずかに長いパルス幅とマルチkHzのパルス周波数をもつ産業用ファイバーレーザーもまた、プラズマを生成するにあたり優れた効果を発揮している 1

プラズマの発生と特性は、パルスエネルギーだけではなく、パルス幅、繰り返し周波数、波長によって影響されるのは周知の通りだ2, 3, 4
その他の重要な特性として、このパラメーターが試料におけるパワー密度に影響するためにビーム品質が挙げられる。

Cobolt社製Tor™レーザーは、マルチkHzの繰り返し周波数、100μJ領域のパルスエネルギー、数nsのパルス幅、超高品質ビーム(M2 < 1.3)を有する新型・コンパクト・高性能・ダイオード励起Qスイッチレーザーである。本アプリケーションノートでは、Cobolt社製Tor™ 1064nmレーザー(繰り返し周波数: 8kHz, パルス幅: 4ns, パルスエネルギー: 150μJ)をLIBSのセットアップで使用し、このレーザーを用いてアルミニウム合金試料から発生されたスペクトルと、低繰り返し周波数・フラッシュランプ励起・Qスイッチレーザー(パルスエネルギー: 10mJ未満)を用いて同試料から発生されたスペクトルとを比較した。Cobolt社製Tor™レーザーからのビームは焦点距離が50mmの集光レンズでターゲットとなる試料に集光し、LIBSスペクトルはCCD分光器で記録した。その結果を図2で示す。

図2:Cobolt社製™レーザーを用いて採取されはアルミニウム合金試料からのLIBSデータ(上図)とフラッシュランプ励起・Nd: YAGレーザーを用いて採取されたアルミニウム合金試料からのLIBSデータ(下図)をそれぞれ比較した結果

両レーザーとも、アルミニウム合金試料の輝線スペクトルをはっきりと示しており、優れたLIBSデータを生成することができる。Cobolt社Tor™レーザーの主な利点は、よりコンパクトであるということだ。
レーザーヘッドの大きさはわずか 125mm × 70mm × 45mm であり、駆動電流と制御信号を供給する電子装置であるコントローラーの大きさは 190mm × 72mm × 28mm である。レーザーヘッドの消費電力の典型値は < 30Wであり、コンパクトであるので同じく他のコンパクトなシステムを容易に統合することができ、持ち運び可能な産業用LIBSシステムを実現することができる(図3)。LIBSアプリケーションにおけるCobolt社製Tor™レーザーの高い性能は、非常に高いピークパワー密度に達するように、試料に照射される光を極めて小さなサイズで集光して試料にビーム照射することができるような高品質ビーム及び位相の整ったクリーンな超短パルスによるところが大きい(図4)。また、レーザーにおける独自の共振器設計により、パルス間ジッターが非常に少ない高安定のパルス列が得られ、検出器への検出信号のゲーティングを同期して行うことが容易になる。
本レーザーは、密閉構造の筐体内に収められているので、温度変動のあるような環境下でも長時間にわたり堅牢性を確保できます。

図3:Cobolt社製Tor™レーザーシステム
図4:Cobolt社製Tor™1064nmレーザーで得られた、繰り返し周波数8kHzにおけるパルス例

結論

LIBS技術は、リサイクルの効率化としてオンラインの金属スクラップ選別といった産業分析アプリケーションに対して高い可能性を持っている。本稿では高品質ビームを持つコンパクト高繰り返し周波数パルスレーザーである「Tor™レーザー」を用いることで、非常に優れたLIBSによる分析結果を得ることができるのと同時に、システムの大きさを大幅に削減しているため、産業分野における使用に適した持ち運び可能なLIBSシステムにも結合できることを示している。

謝辞

本研究を遂行するにあたり、スウェーデンの研究機関Acreo Swedish ICTならびにスウェーデン材料科学技術研究所Swerea KIMABのご支援を賜りました。

参考文献
1. Scharun et al, Spectrochimica Acta Part B 87(2013) 198-207
2. Radziemski en al, Spectrochimica Acta Part B 87(2013) 3-10
3. Ahmed et al, Journal of Applied Physics 106(3)(2009)
4. Winefordner et al, Journal of Analytical Atomic Spectroscopy 2004(19) 1061-1083
5. Noharet et al Photonics West, SPIE vol. 8992 89920R-1 (2014)

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