テクニカルノート

STORM法により広視野での超解像イメージングを実現!

2021年 10月15日

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抄録

現在、単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)は、ナノスケールで生物学的な情報を取得するのに極めて重要な手法となっている。本研究では、わずか1本のレーザーを使って、単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)による新たなマルチカラーイメージング手法を確立した。
著者: Valentina Caorsi,  Håkan Karlsson

図1: スペクトラルアンミキシング(蛍光スペクトル分離)の原理を、下記に示す。本研究では、各分子からの蛍光発光光を700 nmのロングパスダイクロイックフィルターを用いて2つに分離し、その各蛍光分子を2種類の標準的な赤色蛍光色素AF647とCF680で標識した。
(a)Cam1とCam2でのPSF記録の例。
(b上)拡大図。
(b中)2次元ガウス関数で作成した点像分布関数。蛍光分子の中心位置と光子数分布の広がりを評価。
(b下)光子比分布とƛ割り当てのために選択された範囲の例
(c)スペクトル分離に採用された光路で、最初のダイクロイックミラー励起と発光があり、発光光は2番目のロングパスダイクロイックミラーで2台のカメラに分割される。
(d)COS-7細胞内のチューブリンをAF647色素で、クラスリンをCF680色素で標識したとき再構築画像の一例(e)

単一分子観察に基づく分子レベルでの解析を特徴とするPALM(Photoactivated Localization Microscopy:光活性化局在性顕微鏡法)1,2、PAINT(Point Accumulation for Imaging in Nanoscale Topography:ナノスケール構造の画像観察のための点集積法)3、STORM(Stochastic Optical Reconstruction Microscopy:確率的光学再構築顕微鏡法)4,5などに代表される単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)は、ナノレベルでの生体イメージングには欠かせないツールとして注目を集めている。これらのイメージング法は、約10 nmの空間分解能で ぼやっとした低分解能の画像を「疑似」的に「等方性」をもたせて高分解能に変換し、蛍光分子の共局在構造を高精度で捉えることができる6。しかしながら、単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)は、波長やナノスケール観察の際に発生する色収差の影響を受けやすい蛍光スイッチング特性(光刺激による蛍光のON ↔ OFF)に依存しており7、これまでのシンプルな蛍光色素では、単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)によるマルチカラーイメージングは困難であった。これまで、マルチカラーイメージングには、励起波長の異なる複数のレーザー光源を用いて蛍光標識した細胞を連続的に撮影していた。しかしこれでは、波長ごとに焦点距離が異なるため、各蛍光分子の記録時における光軸上の結像位置にずれ(ドリフト)が生じ、画像がぼやけてしまう。

しかし近年、マルチカラーイメージングに関する研究が活発に進められ、複数の蛍光色素の励起をたった1台の遠赤色励起レーザー光源で行う画期的な観察手法が実証された。本研究では、上述した問題を克服するため、1台のレーザーをファイバーカップリングにてマルチカラーイメージング(多重染色)専用の顕微鏡に導入し、スペクトラルアンミキシング法による蛍光イメージングを行った。そして、容易な操作性、高速且つ高信頼性の出力データの取得を実現するツールとして、ナノスケール観察ができる3次元マルチカラーイメージングを構築した。

<SAFe RedSTORMシステムによるマルチカラーイメージング>

近年、スペクトラルアンミキシング(蛍光分離)アルゴリズムに基づく単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)を駆使したマルチカラーイメージング法として様々な研究成果が報告されている8-13。こうした研究はさらにもう一歩進み、堅牢な設計で使いやすいレシオメトリック(比率測定)技術を採用した測定装置を利用して、重なった赤色蛍光スペクトル(蛍光発光の寄与)を分離することができるということが分かった。蛍光波長の重なりを回避できるということは、つまりマルチカラーイメージング(多重染色)法が可能であることを意味する。この新技術において、試料から蛍光発光する光を、700 nmなどのロングパスダイクロイックミラーで2つの別々の光路に分離し、2台の光検出器(光学カメラ)へと入射させる(図1a及び1d参照)。2台の光学カメラで各蛍光色素の強度を測定し、レシオメトリック(比率測定)による蛍光量子収率(R)の演算により、それぞれの蛍光色素を高密度で局在化させ、スペクトル蛍光分離を行う。従って、量子収率(R)を求めることにより、励起波長領域内(λ)の蛍光色素を識別することができる(図1c参照)。画像取得の際には、次の2つのパラメータは重要な役割を果たすことになる。それは、どの波長を選択するのか、ということと、蛍光分子がどの程度の脱離挙動をするのか、ということだ。スペクトラルアンミキシング法による蛍光イメージングで一番重要なことは、蛍光体間のクロストーク(蛍光の重なり)を最小限に抑制し異なる構造をもつタンパク質を正確に分離すると同時に、目的とする蛍光色素以外の蛍光色素からの不要な蛍光を選択的に排除して、高精度な再構築画像を取得することである。

本研究で構築したマルチカラーイメージング(多重染色)法の一例を図1eに示す。励起光源に単一周波数・高出力・640nmのRogueレーザーを用いて、Alexa Fluor 647色素でチューブリンを、CF680色素でクラスリンを標識したCOS-7細胞の再構築画像を取得した。Abbelight社製のマルチカラーイメージング(多重染色)専用システムSAFe RedSTORM及びこれまでにはなかった広視野観察が可能な同社製のSAFe360システムには、このようなスペクトラルアンミキシング(蛍光分離)の新技術が結集されており、どちらのモジュールも、簡単な広視野顕微鏡システムとしてだけでなく、より複雑な共焦点顕微鏡またはスピニングディスク顕微鏡として、研究目的に応じたナノレベルでの倒立型顕微鏡の構築ができる。

図2: 本研究で構築した単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)によるマルチカラーイメージングシステムの概略図。
640 nmの単一・赤色波長域・周波数レーザー光源であるRogueを使用して、シングルモードファイバーでカップリングした。

本研究で構築した単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)によるマルチカラーイメージングシステムの概略図を図2に示す。ここでは、励起光源に単一周波数レーザーのCobolt社製Rogue 640nm 1Wを用いて、SAFe RedSTORMモジュールにファイバーカップリングした。SAFe RedSTORMシステムの対物レンズは、TIRF及びHiLo照明に対応しているので、高感度な蛍光分子検出が可能である。顕微鏡から高精度な蛍光画像を取得するために、まず ダイクロイックフィルターを用いて励起光と蛍光発光光を分離する。ダイクロイックフィルターにより反射された励起光は蛍光顕微鏡へと導かれる。試料から発せられた蛍光は対物レンズで集光され、対向するSAFe RedSTORMモジュールの照射面へと投影される。投影された各々の光は、照射面上でアンミキシング(蛍光分離)され、それと同時に2台の光学カメラへと転送される。任意の励起領域でスキャンを行うASTER技術14を利用した照明モジュール機能により、本研究におけるシステム構成では、明視野反射型蛍光顕微鏡法(エピ蛍光顕微鏡法:epi-fluorescence microscopy)、薄層斜光照明法(HILO microscopy)、全反射照明蛍光顕微鏡 (TIRF)の光学系をベースにして、最大200 µm x 200 µmの広視野(一般的な光学顕微鏡の25倍の分解能)で、均一に試料に励起光を照射させ、蛍光画像を生成することができる。

図3: Alexa Fluor 647色素でチューブリン(赤橙色)を、CF680色素でクラスリン(青)を標識したCOS-7細胞の2色同時イメージングにおける再構築画像

このスペクトラルアンミキシング法による蛍光イメージングの最も大きな利点として、使用する蛍光色素はすべて同じスペクトル領域内において励起されるので、2波長励起に必要となるレーザーはたった1台で済むということだ。さらに、色収差も低減しているので、励起波長の異なる蛍光色素間におけるドリフト補正も不要である。1度の画像取得で、波長の情報を記録できるということだ。堅牢で容易に利用可能なイメージングツールとして、ナノスケールでのマルチカラー蛍光画像を2次元だけでなく3次元でもシンプルな操作で取得でき、3つの蛍光色素を3次元でイメージングする場合でも、蛍光体間のクロストーク(蛍光の重なり)は10%以下に抑えることができる。
※ 2つの蛍光色素を用いた2次元画像取得の場合のクロストークにおいては、1%以下を保持(典型値)

<神経科学分野の研究に適した顕微鏡 ― Abbelight社製「SAFe RedSTORM」>

超解像顕微鏡の出現により、シナプスにおける神経細胞間の情報伝達などの基本的な神経系の機能を詳細に取得することができるようになった。神経回路の形成に関わる主要なタンパク質は高度に組織化されており、このナノスケールの集合体がシナプス伝達効率の微調整を行う。しかしながら、神経伝達物質を放出するシナプス前終末(出力側)と神経伝達物質の受容体であるシナプス後終末(入力側)の接点である「シナプス間隙」の細胞構造を可視化するのに必要となる画像の精密な位置合わせ処理を行う際、生体試料が引き起こす色収差の影響を受けてしまう可能性がある。他方、単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)は、多重染色画像に有用なスペクトル励起アンミキシング法であり、このようなタンパク質複合体の高分解能な構造解析に極めて有効である。

本研究では、神経科学の研究に適したマルチカラーイメージング(多重染色)法である単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)が、どれだけ高分解能にて神経系の可視化ができるかを調べるために、英ロンドン大学、キングス・カレッジのJuan Burrone教授(博士号取得)が長を務める研究チームに所属するBenjamin Compans博士らが、シナプスを介した情報伝達に関係のある2種類のタンパク質の構造解析を行った。シナプス前活性領域タンパク質分子であるBassoonとGABAa受容体(GABAaRs)をそれぞれ赤色蛍光色素であるAlexa Fluor 647とCF680で標識し、Abbelight社製の「SAFe RedSTORM」顕微鏡システムによるイメージング分光解析を行った。Bassoonは、神経伝達物質分子を放出するアクティブゾーン(活性領域)と呼ばれる領域を結び付ける働きをするシナプス前部に存在する足場タンパク質であり、興奮性シナプスと抑制性シナプスの両方に存在する。GABAa受容体(GABAaRs)は、主に抑制性シナプスでの情報の受け取りを担う。GABAa受容体(GABAaRs)は、シナプス前終末から放出される神経伝達物質のGABAがシナプス後膜に集積することで、その安定性が高められ、GABA放出が恒常的に起こることにより活性化される。広視野・高分解能でのマルチカラーイメージング計測で、タンパク質局在を可視化した様子を図4に示す。

図4: 海馬神経細胞におけるタンパク質局在を観察するために、スペクトラルアンミキシング(蛍光分離)処理を行い検出された2色の蛍光色素の3D-dSTORM再構築画像。
Bassoonタンパク質は赤橙色の蛍光標識抗体AF647で、GABAaRタンパク質は青色の蛍光標識抗体CF680でそれぞれ染色。
左の画像: 100µm × 100µmの広視野で取得した画像。
右の画像3枚:シナプスの拡大図。Bassoonは、GABAa受容体が情報の受け取りを担う抑制性シナプスに常に存在しているが、GABAa受容体の濃度が低い興奮性シナプスにおいても見られる。

(生体試料及び画像は、英ロンドン大学、キングス・カレッジのJuan Burrone研究室、Bemjamin Compans教授による提供、SAFeRedSTORMシステムにて測定)。Cobolt社製Rogueレーザーは、スペクトル線幅が0.2 nmであり、コヒーレント長に直すと約2 mmである。ビームプロファイル: TEM00 (M2 < 1.1)

<単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)に最適なレーザー>

単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)では、解析対象の分子を単一分子毎に標識し、ナノスケーリングでの定量イメージングを確実に行うために、高い放射照度(数kW/cm2)が必要とされる。蛍光波長が異なる3つの蛍光色素の同時イメージングに際して、広視野にて単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)で必要となる高密度での局在化を行う場合、さらに重要なポイントになる。さらに、放射照度が高くなることで画像取得速度が向上し、広範囲でのスペクトル領域において分光放射量を取得することでナノスケールでの高速イメージング分光測定が可能となる。

広視野・高速・ナノスケールの高分解能にて複数の蛍光色素を励起するには高い放射照度が必要となり、これはつまり高出力レーザー光源が必要であるとも言い換えることができる。この点において、赤色波長に対応した新たな小型・高出力レーザー光源が利用できるようになったことで、容易に可視化できる高精度・単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)技術の開発が進んでいるということだ。
波長640nm/出力1WのCW半導体励起レーザーのCobolt社製「Rogue」は、Alexa Fluor 647やCF680などの赤色蛍光色素を同時励起するのに最適な光源である。ビーム形状は回折限界に使いシングル横モードのTEM00出力なので、シングルモード偏波保持ファイバー伝送による顕微鏡との高効率な光結合が可能だ。

「Rogue」は、低ノイズの回折格子と組み合わせることでマルチ縦モード制御を行うことができる。これは、可視光スペクトル領域における半導体励起レーザー技術ではかなり画期的なことである。通常、可視光半導体励起CWレーザーは、共振器内部で周波数変換を行う構造を有しているが、この基本的な構造では、マルチ縦モード発振の共振器内部で生じるモード競合 (半導体レーザーの発振モードは変動しやすい) 間の非線形の伝搬損失に起因するカオス的な変動により、強度ノイズが発生してしまう。これは、緑色波長で光効率が低下する「グリーンノイズ」として知られており、このノイズを回避するためには、単一縦モードのレーザー光源が必須条件である。

単一縦モード(SLMまたは単一周波数発振)動作は、通常、共振器内部に、波長の変動をモニタリングする波長フィルタを設置することで可能となり、このような波長フィルタにより、ある程度、光出力の調整を行うことができる。Cobolt社製「Rogue」は、特定の波長を直接、光変換することができるので、このレーザーを用いれば、周波数変換媒体を必要とせずに、マルチ縦モード発振、且つ 低ノイズ化を実現することができる。つまり、スペクトルのフィルタ処理が不要であるため、出力スケーリング(デジタル出力値を任意の値に容易に変換)が可能になるということだ。

Cobolt 製のRogueは、プラセオジムイオン(Pr3+)ドープ結晶(可視域に多くの発光遷移を持ち,高効率な可視レーザーに用いる利得媒質)をベースにした、市場に存在する比較的新しい種類のダイオード励起レーザー光源である。可視領域における半導体励起中のプラセオジムイオン(Pr3+)の発光検出の技術開発が進展し、この技術を利用したレーザー光源による光子の制御が産業規模で実現することとなったが、従来構造の半導体レーザーに比べて実証されているこの種のレーザーの利点は、可視で直接放射するレーザー技術だ。つまり、放出されるビーム形状は完全なシングル横モード、且つ、マルチ縦モード(発振波長)による動作が可能なので、小型のプラットフォームにてレーザー出力スケーリングがさらに容易にできる。さらに、イメージングアプリケーションにおけるマルチ縦モード(発振波長)動作のもう一つの利点は、広帯域のスペクトルで発振するので(空間領域では狭帯域になる)コヒーレンス長は短くなり、画質の低下をもたらす ”スペックル” (ランダムな暗・白の干渉パターン)ノイズやビーム経路における表面からの干渉の影響が低減されるということだ。これは、より大きな照射領域を必要とするイメージングアプリケーションの場合、特に重要なことである。

Cobolt 製のRogueは、可視光を直接放射するレーザー技術の他に、筐体内の各光学部品を高温硬化・固定する技術(HTCure技術)による高堅牢性・高密閉性を実現させている。様々な動作環境下でも優れたビーム質(TEM00)と出力安定性を維持することのできる小型筐体設計(寸法 115×55mm)で高出力(1W)発振が可能である。

<今後の展望>

シングルモード偏波保持(PM)ファイバー出力の小型・高出力・赤色波長レーザー光源に、レシオメトリック法(異なる 2 波長での蛍光強度を測定し,その強度比を用いて目的物質の定量を行う手法)により、赤色領域で蛍光発光する色素とは光学的に別の色の蛍光色素に分割して励起を行う蛍光プローブであるAbbelight社のSAFe RedSTORMの技術を組み合わせることで、高分解能(15nm)・超広視野(Field Of View / 実視野: 最大200 × 200 µm2)での3次元・ナノスケール・多重蛍光画像の取得が可能になる。顕微鏡への組み込みが容易で使いやすい光源なので、幅広いアプリケーションに対応できる。

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