テクニカルノート

⑮ミラー複屈折による低レベル発振

2022年 07月27日

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この現象は数百 kHz 辺りで低レベル出力の発振がモードスイープの一部で発生するというものです。 この現象は目で確認できたり偶然にそうなるといったものではなく、その出力変動がチューブの全出力の 1%前後で典型的に発生するものです。ただしそれは「興味深い」カテゴリーに当たるものです。実際、この発振が検知されるのはこのレーザーを使用する光学機器が生み出すスペクトルによってであり、その問題点とはそこに存在すべきではない波長のスパイクによって波長参照が崩壊しているということです。この問題は HeNe レーザーのユーザーの少なくとも 99.999%には気付かれることは無いでしょう。

今後のために 200mm(~8 インチ)キャビティ長の HeNe レーザーのモードスイープを参照ください。最後のスライドでクリックすると動画を表示できます。少し短い動画ですが、動画内で表示されるチューブには問題となっているチューブと同様のモードスイープが見られ、モード数は常に 3 本までしかありません。赤と青のモードは「p」と「s」と呼ばれるチューブの 2 本の直交偏光軸を示しています。

これらの低レベルの発振が観察されたチューブは、長さでは約 9.0~10.5 インチ(約 225~260mm)あり、ランダム偏光を示します。これらは多くても 3 本のモードしか持ちません。より多くのモードを持つより長いチューブが存在する

200mm長のランダム偏光HeNeレーザーの縦モード例

これまでのところ、Zygo 製 7701/2 ともう 1 本の未確認の Zygo 製チューブおよび Siemens/LASOS 製 LGR7621S だけがこうした発振をはっきりと示しました。Melles Griot 社製 05-LHR-038 と 05-LHR-117 およびSpectra-Physics 製 088-2 と Siemens 製 LGR-7631A でのテストの結果では、これらのチューブが(上記の 3 本と)物理的に同様であるにも関わらず、検知可能な発振は見られませんでした。チューブが発振を示す場合、同じモデルでのすべてのサンプルは同様に発振するでしょう。少なくともそれが否定されるまでは。

Zygo 社製 7701 システム
Siemens 製 LGR-7631A
Spectra Physics 社製 088-2 チューブ

この発振が見られるのは 3 本の縦モードが存在している場所のみであり、動画では 2 本の青色モードが 1本の赤色モードの左右どちらかの側に存在する、あるいは 2 本の赤色のモードが 1 本の青色のモードの左右どちらかの側にある場合です。ほとんどの時間において 3 本目のモードがノイズの上に頭を突き出すとすぐにこの発振が現われます。 ただし、いくつかの場合では遅れがあってからすぐに現われます。 (ただし、その頻度は上がりません。)

発振の位相は p 偏光と s 偏光では(相互に)反対方向であり、それらの強度は同等です。そのため p 偏光のみあるいは s 偏光のみが直線偏光子で選択されない限り、発振はほとんど検出されません。つまり p モードはs モードから見ると位相が 180 度ずれた振幅で変化していることを意味します。そしてこの現象を確認するには、1 個の偏光ビームスプリッター(PBS)と 2 つの逆バイアスフォトダイオードを使って p 発振と s 発振を同時に観測し、また同時に走査型ファブリーペロー干渉計(SFPI )で縦モードも観測する必要があります。 この現象は p モードと s モード間のある種のモード競合とも思われます。 (この逆方向の位相はこの発振が起きる同じモデルのすべてのサンプルには当てはまらないかもしれないと私は耳にしたことがありますが、私自身がこの目で確認するまで私は主張し続けます!)

2モード安定化単一周波数HeNeレーザー
共焦点走査型ファブリーペロー干渉計

発振の p-p 振幅はチューブの合計出力の 1%に過ぎません。(だから私は「殆どの人はこれに気づかないだろう」と言ったのです!) (p と s)それぞれの偏光で 2~2.5mW ピークを示し全体で 3.5 mW の出力を持つチューブの場合、フォトダイオードで約 10 mV p-p を確認できるでしょう。その振幅はある程度変動し、発振が存在している期間の中心近くでピークに達します。変動は特定のレーザーチューブによって少ないか 2:1 ほどまでありますが、サイドモードのどちらの振幅にも追随することは決してありません。シグナル光は最大出力の 1/2を最小値としてほぼ即座に現れます。

発振の周波数は典型的に 200kHz と 600 kHz の間にあってレーザーチューブ(同一のモデルでも)のサンプル毎に異なり、pあるいは s モードが中心にあるかどうかにも依ることがあります。(つまりオリエンテーションが1つの要因となっています。)そのためこの現象はチューブの物理的特性に依存します。またチューブの温度(temperature)にもある程度(degree)依存します。 (だじゃれじゃないけど。) 数本のチューブでの周波数範囲の「非常に」 おおざっぱな推定が以下の表です。


興味深いことに Zygo 製不明モデルの複数のチューブの発振周波数がほぼ同様で、1 つの例では私の計測の誤差範囲内で同一でした。このチューブは何らかの理由で「ウェッジ(あおり角)」が欠落していた HR ミラーに私が「ウェッジ」を付加したチューブの内の唯一のサンプルでした。そのため、ミラー基板の表面からのわずかな戻り光があるマイナーな影響をもたらしたものと思われます。

約 1.95 MHz 辺りでの付加周波数がこれらのチューブの一部で見られましたが、それらはずっと低いレベルであり、3 本の縦モードの存在とは関連していないのかもしれません。またもや謎です。

発振がほとんど突然に現われるか消える(大きな変化をしうる)ところを除いて、周波数はそれが存在する期間の数十パーセントまで単調に増えたり減ったりします。周波数が増加するか減少するかは p 偏光あるいはs 偏光が中心にいるかどうかに依存し、これはチューブ構造への物理的依存のもう一つの表れといえます。 単調さもゲインカーブやそれに関連するものの挙動の非対称を示します。留意すべきは LASOS 製 7621s と Zygo 製7701/2s はほんの 15~30kHz の変化を見せただけでしたが、片や Zygo 製の不明チューブの一部では約 200 kHzの変化を見せたということです。

Lasos 社製 LGR7621S チューブ

正確な挙動は p 偏光と s 偏光が中心にいるかどうかに依存し、また偏光軸がチューブオリエンテーションにロックされるため、現段階での仮説としてはこうした現象はミラー複屈折を原因とするかその影響を受けているということになります。ミラー複屈折は、結晶構造が完全な対称性を持たないミラーコーティング処理の結果です。反射の有効な深さという結果(つまりキャビティ長)はオリエンテーションに依存し、わずか 1nm の典型的差異を持ちます。

9 インチ(約 225 mm)のキャビティ長を持つチューブの 633 nm でのキャビティ長変化 1nm は、ほぼ 2MHz の周波数変化を意味します。そのため、数百 kHz におよぶ観察された(発振周波数の)移動は、p モードと s モードが 標準的な C/2L キャビティ共鳴からほんの 1nm だけずれることとなり、結果的にある種の低レベルのモード競合をもたらします。多分 LASOS 製と Zygo 製のチューブは、片方あるいは両方のミラーに明確な複屈折を持っているかどうかで異なっているようです。 けれどもはっきり言ってこれまでの説明を越えてこの現象全体がどう起きているのかということは全くどうでもよいことかもしれません。まるでそんな話はハナから存在しないのだという感じで。

すべてのコーティングプロセスが複屈折を呈すわけではありませんが HeNe レーザーは固定した偏光軸を持つ傾向があるため、殆どの普通の HeNe レーザーチューブにこうした現象が起こるのは全くありえることです。また、チューブ構造上の他の非対称性に起因する複屈折もあり得ますが、その可能性はより少ないものと思われます。非常に低い複屈折に関する周知の例外は REO 社製(REO 社自身の主張とたいていの安定化 HeNe レーザーには固定された偏光軸が必要とされることに基づいて、REO 社製チューブはこの「特性」に関して検討するにはより複雑であるに違いないため)と HP/Agilent 社製ゼーマン HeNe チューブ(ゼーマン磁石を外すと非常に固有のモードスイープを示します)です。REO 社製と HP/Agilent 社製チューブはそもそも非常に特異なため、この種の発振に関してそれらを検査することは可能ではないでしょう。同様に、それらのチューブが複屈折が少ないまたは持たない発振を示すかどうかを決定する容易な方法も存在しません。ただし、それらが若干の非対称性を有することは間違いがありません。なぜならそれらはすべて固定した偏光方向を持っているからです。

REO 社製レーザー

ミラー複屈折やその関連事項の結論に到達するに当たって、以下の点は(説明からは)除外されています。

高次の縦モードビート(うなり): 基本の縦モード同士は C/2L のキャビティモード間隔程度の周波数差(縦モード間隔:MHz 単位)をもつ一方で、それぞれはモードプリング効果(エンベロープの中央にわずかながら引き寄せられる効果)によって正確な C/2L とはならず、数百 kHz 範囲の周波数差を持つことになります。こうして2 次ビート(うなり)(ビート(うなり)のビート(うなり))がこの範囲での差周波数を持ち得ます。ただし、この現象は逆位相あるいは単一モードがどのようにこの発振(うなり)を起こすのかを説明できません。かつこの現象では、低レベル発振がなぜ他の同様のチューブで発生しないのかも説明できないでしょう。

横モードビート(うなり): これらすべての TEM00 チューブが明確な高次横モードを持つとは考えにくいだけでなく、それらに基づく説明も逆の位相挙動や単一縦モードからの発振を説明できないように思われます。2 番の LASOS 製チューブで全出力の約 2%程の非 TEM00 の横モードがモードスイープサイクルの一部で現ましたが、その発生は低レベル発振と同時発生するものではありませんでした。1 番の LASOS 製チューブは、ほとんど検出できそうにない約 0.05%の非 TEM00 の横モードを示しますが、それは要因と考えるにはあまりにも小さなものです。他のチューブでのいかなる非 TEM00 の横モードもさらに小さいか存在すらしませんでした。

ゼーマン分離: 近辺には磁石あるいは磁化された物質はありません。さらに、偏光子がセンターモード全体を通過させるため PD(フォトディテクター)で 2 つのサブモードが結合される機会は無く、発振の振幅は最大となります。モード自身が 2 つのサブモードにある程度分離されることは有りえますが、SFPI(走査型ファブリーペロー干渉計)上で区別できません。ただし、(1)これを裏付ける基本原則はありません、(2)これはサイドモードがいかにして同じ周波数を持つのかを説明しません、そして(3)それらは位相外にあります。

安定化ゼーマン分離2周波数HeNeレーザー

プラズマ発振: こうした(プラズマ)発振は数百 kHz の範囲で起こることがありますが、それらはモード位置に依存しません。さらに、電源の電流を変化させても低レベルの発振について観察された挙動に本質的に影響を与えません。

電源リップルの高調波: 複数の電源をこれらのチューブでテストしてみましたが、相違は全く見られず、モード位置との相互関係も有りませんでした。

戻り光: これは屈折で曲がって見えるストローで物を掴む類の話ですが、それはさておき、私はウェッジ(あおり角)が付いていなかった Zygo 社製チューブの HR ミラー(高反射率ミラー)にウェッジを取り付けました。こうすると、コーティングされていないミラー基板の外側からキャビティに戻る反射を最小化できます。予想通り変化は起きませんでした。

ゴーストビームへのあおりの効果と通常の反射
(あおりの量は大幅に強調)

私は同じ現象が LASOS 社製チューブと Zygo 社製チューブで見られるこうした発振の原因であると信じていますが、違いも存在します。Zygo 社製チューブで注目すべきことは、周波数の変化は LASOS 社製チューブでのほんの 20kHz と比較してほぼ 2:1 となるということです。あるサンプルチューブでは 200kHz から 360kHzにまで及びました。そして LASOS 社製チューブと比較すると、2 つの周波数の違いがほぼ 2:1(およそ 280 と500kHz)もあり、Zygo 社製チューブとしてはどれも同じ様に見えますが、p モードあるいは s モードが(エンベロープの)中心にあるかどうかで(変化量)が増えたり(200-360 kHz )減ったり(544-595 kHz)します。

私は今のところミラー複屈折にずっと拘っています。それは製造バグではなく特性であるかもしれません。特に、片方か両方のミラーへの高度な複屈折コーティングを施して偏光方向をロックしてこれらのチューブを安定化 HeNe レーザーで使用できるようになりますが、私は LASOS 社や Zygo 社がそこまで洗練されているとは思いません!

この現象を再現するテストは比較的容易で、かっこいい高価な装置を必要とはしません。主要な装置は偏光子あるいは偏光ビームスプリッターとシリコンフォトダイオード(ソーラボ社製 DET210 あるいは DET10A(ググると見つかるでしょう)と同様の回路のものならどんなタイプのものでも)およびオシロスコープ(関係する周波数は 1MHz 未満なのでほとんどどのタイプでも大丈夫)となります。2k~5k オームで出力を終端し、スコープを垂直感度数 mV/div、AC 結合、スイープ速度数数 µs/div で設定します。チューブは赤色(633 nm)、ランダム偏光で良好な状態のものとしてください。 (私は他の色のチューブで何が起きるかは分かりません!)それらは全長 8~10 インチ(20~25cm)ほどになるでしょう。より短いチューブではせいぜい 2 本のモードとなるでしょう。より多くのモードを持つより長いチューブも使用できるかもしれませんが、それは学生の演習用にとっておきます。なぜなら信号はとても低レベル(3 または 4 mW 出力のチューブでも 10mV 程度)なので、リップルやノイズ源などを排除することは挑戦項目となりえます。特に HeNe レーザー電源からのリップル電流は低レベルの発振シグナルを圧倒して覆ってしまうこともあります。フィルター式リニア電源が最適ですが、一部の新型スイッチモード「レンガ」(モジュール電源)はきっちりと低リップルを有するものもあります。そして外部リップルリデューサーを付加することも可能です。安定抵抗管からの強度変動を拾い上げるときにフォトダイオードを室内照明から遮蔽する必要があるでしょう。電源などすべてを投入し、数百 kHz の範囲で行ったり来たりする明確な発振を探しますが、チューブが温まるにつれて(発振の程度が)低下してきます。チューブを45 度以上回転させて最大シグナルを得られるように調整します。SFPI(走査型ファブリーペロー干渉計)を持っているなら、非偏光ビームスプリッターを使用してチューブの出力の一部を取り出し、発振がどのようにモードの数とそれらの位置に関連するかを(SFPI で)表示します。上記のとおり選択されたチューブだけがこの現象を示し、不幸にもそれらは最も一般に利用可能なものではありません。そのため、あなたの研究成果そして成功は変化することもあります。

ソーラボ社製 DET201 シリコンフォトダイオード
ソーラボ社製 DET10A シリコンフォトダイオード
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