テクニカルノート

2モード型安定化633nm HeNeレーザーにおける周波数安定度の改善

2019年 12月19日

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村上文夫 日本無線(株)研究所
佃雅彦  同志社大学 工学部
大田建久 同志社大学 工学部

<要旨>

本研究では、外部共振器で光強度を増強させた周波数変調分光法(FMS)によって、2モード型安定化633nm HeNeレーザーの赤色光(低周波光)発振モードをヨウ素分子127I2におけるP(33)線の超微細構造にロックして周波数計測を行った。赤色光及び青色光(高周波光)発振モードのレーザーは、両方とも2.3 x 10-11 τ-1/2の周波数安定度を持つ。さらに、ファブリ・ペロー型共振器を用いて青色光モードの周波数変動を検出し、音響光学周波数シフターで補償した。2 x 10-3秒と2x 10-1秒の間の積分時間で、3 x 10-11以上の周波数の短期安定度を実現している。
※本論文(1998年)の著作権は米国光学会に帰属する。

1. はじめに

2モード型安定化633nm HeNeレーザーは、低コストであり長寿命の内部ミラー型レーザーチューブ及び比較的使いやすいサーボシステムを備えているため、産業用の変位測定干渉法で広く用いられている。さらに2モード型安定化レーザーの別の特徴として、利得特性における周波数変換があるが、これは長期安定度及び波長精度に限界がある。

対照的に、1992年に開催されたCCDM(Comité Consultatif pour la Définition du Mètre:メートルの定義のための諮問委員会)により、2.5 x 10-1の発振周波数の不確かさを持つヨウ素安定化HeNeレーザーが波長標準として勧告された。しかしながら、従来の内部共振器型ヨウ素安定化レーザーは、比較的低出力(典型値0.1mW)で6MHz p-pの周波数変調を受けるので、干渉計に適した光源とは認められていない。さらに、このシステムの欠点として、光損失を発生させる外部ミラー付きの外部共振器型レーザーが厳密なアライメントを必要とし、機械的な振動や衝撃を受けやすい。

本研究の目的は、ヨウ素の飽和分光という手法で2モード型安定化レーザーにおける周波数安定度の改善を実現することである。本研究で用いたシステムにおいて、外部共振器で光強度を増強させた周波数変調分光法(FMS)を用いて、2モード型安定化レーザーの赤色光(低周波光)発振モードをヨウ素分子127I2におけるP(33)線の超微細構造にロックして周波数計測を行った。さらに、ファブリ・ペロー型共振器を用いて青色光発振モードの周波数変動を検出し、音響光学周波数シフターで補償した。

2. ヨウ素分子127I2の超微細構造に周波数安定化を行う

本研究で使用した2モード型安定化レーザーは、直交する2つの偏波モードを保持する内部ミラー型のHeNeレーザー(Uniphase社製1103H)で構成される。我々は、直交する2つの偏波モード間の強度差とリファレンス信号(所定の設定値)とが一致するようレーザー管に巻かれたヒーターの電流値を操作することで、レーザー共振器長の制御を行った。リファレンス信号を調整することで、各出力光の周波数を20Ne(ネオン)原子の共鳴周波数帯付近である約±700MHz以内に変調することができる。

図1:外部共振器で光強度を増強させた周波数変調分光法(FMS)を用いて
2モード型安定化レーザーをヨウ素分子127I2の超微細構造にロックするための実験系。

PBS:偏光ビームスプリッター
HWP:1/2波長版
L:レンズ
M:ミラー
BS:ビームスプリッター
AOM:音響光学変調器
EOM:電気光学変調器
PD:フォトダイオード
LIA:ロックインアンプ
OSC:オシレーター
PTZ:圧電トランスデューサ

2モード型安定化633nm HeNeレーザーをヨウ素分子127I2の超微細構造にロックするための実験系を図1に示す。2モード型安定化レーザーの赤色光モードを偏光ビームスプリッター(PBS)で選び、ポンプ光とプローブ光に分離した。飽和吸収を起こさせるのに十分な強度のポンプ光の出力が得られるようにヨウ素セルを外部リング共振器内に設置し、ヨウ素セルのコールドフィンガー温度を15±0.1℃に制御した。共振器がレーザー周波数と常に共鳴状態にあるように偏光分光法を用いた。ドップラー効果を打ち消すために、音響光学変調器(AOM)を用いて20 kHzの周波数でポンプ光の強度を変調し、リング共振器にカップリングさせた。音響光学変調器(AOM)の周波数シフト量は80MHzである。プローブ光の方は、電気工学変調器に通し5 kHzの周波数で位相に対して変調を加えるとヨウ素セル内をポンプ光とは反対方向に伝搬する。このとき、ポンプ光とプローブ光の交差する角度は約5mradである。ヨウ素の吸収によって生成された5 MHzのビート信号をRFミキサを用いてベースバンド信号に変換し、信号における強度変調された飽和吸収成分の同期検波をロックインアンプにより行った。外部共振器で光強度を増強させた周波数変調分光法(FMS)によって観測されたヨウ素分子127I2におけるR(127)線及びP(33)線の超微細構造を、図2に示す。

図2:外部共振器で光強度を増強させた周波数変調分光法(FMS)によって観測された
ヨウ素分子127I2におけるR(127)線及びP(33)線の超微細成分。

ロックインアンプの出力信号を2モード型安定化レーザーのリファレンス信号に加えることで、レーザーの赤色光モードの周波数をヨウ素分子127I2のP(33)線の α 成分にロックする。この条件下で、モード間ビート周波数は725.6585 MHzであり、レーザー管からの出力パワーは赤色光モードでは1.1mW、青色光モードでは1.3mWである。

絶対周波数は、2モード型安定化レーザーと基準レーザーの間のビート周波数から求めた。基準レーザーは、R(127)線のi成分にロックされた内部共振器型ヨウ素安定化レーザー(ニコン製 NN-1)であり、その不確かさは1 x 10-9 (0.5 MHz) より良い。赤色光モードのレーザーと基準レーザーの間の周波数分離は353.548 ± 0.005 MHzであり、P(33)線の α 成分及びR(127)線のi成分の間の周波数分離よりも狭い40.000 MHzである。これは、音響光学変調器(AOM)を用いて周波数シフトをしたからである。ビート周波数から推定される再現性は1 x 10-9より優れているが、詳細には調べられていない。

周波数安定度は、2モード安定化レーザーと参照レーザー間のビート周波数におけるアラン分散を用いて評価した。その結果を図3に示す。ヨウ素分子127I2の超微細成分にロックする前は、周波数安定度は約10-9から10-10である。赤色光モードの周波数をP(33)線の α 成分に安定化すると、赤色光及び青色光(高周波光)発振モードは、両方とも2.3 x 10-11 τ-1/2の周波数安定度を示す。

縦軸:アラン分散の平方根 横軸:積分時間
図3:2モード安定化レーザーをヨウ素分子127I2の超微細成分にロックする前後の周波数安定度。

3. 短期的な周波数安定度の改善

図4:2モード安定化レーザーの短期周波数安定度を改善するための実験系。赤色光モードをヨウ素分子127I2の超微細構造にロックする間に、AOMを用いてレーザーの青色光モードにおける周波数変動を補正した。

LPF:ローパスフィルタ
PBS:偏光ビームスプリッター
HWP:1/2波長版
AOM:音響光学変調器
EOM:電気光学変調器
PD:フォトダイオード
APD:アバランシェフォトダイオード
P:比例増幅器
OSC:オシレーター
VCO:電圧制御発振器

短期的な周波数安定度の改善を実現するため、赤色光モードをヨウ素分子127I2の超微細構造にロックする間に、AOMを用いて2モード型安定化レーザーにおける青色光モードの周波数変動を補正した。図4に実験装置の概略図を示す。2章で言及した周波数変調分光法(FMS)と同じ手法で、共焦点型ファブリ・ペロー型共振器を介して周波数変動のモニタリングを行い、誤差信号として扱われるミキサからの出力信号はカットオフ周波数1.3 MHzのローパスフィルタでフィルタリングする。AOMを駆動する電圧制御発振器(VCO)に誤差信号を「比例的に」フィードバック制御する。電圧制御発振器(VCO)の電圧-周波数感度は4.6 MHz/Vである。本研究で用いたファブリ・ペロー型共振器には低熱膨張材(インバー材)のシリンダーが採用されており、自由スペクトル領域は2 GHz、共振器のフィネス(共振の鋭さの目安)は約60である。共振器長のドリフトを補正するために、誤差信号を積分して共振器の圧電トランスデューサに印加した。ループのユニティゲイン周波数は0.1 Hzである。

図5:AOMによる周波数の補償前後にファブリ・ペロー型共振器によって観測された周波数変動におけるアラン分散のプロット図。

短期周波数安定化レーザーに関しては、これまでのところ他の短期周波数安定化レーザーが利用されていないため、2台のレーザーシステム間のビート信号では評価が定まっていない。周波数変動を表す誤差信号から得られる短期周波数安定度は推定値である。図5は、補償前後での周波数変動におけるアラン分散のプロット図を示す。補償ループ・ゲインは約20である。2 x 10-3秒から2 x 10 -1秒の積分時間で、短期安定度は3 x 10-11よりも改善した。

おわりに

我々は、外部共振器で光強度を増強させた周波数変調分光法(FMS)を用いて、2モード型安定化633nm HeNeレーザーの赤色光(低周波光)発振モードをヨウ素分子127I2におけるP(33)線の超微細構造にロックして周波数計測を行った。このシステムでは、内部ミラー型のレーザー管においてレーザー光が発振され、2モードを用いた手法でレーザー周波数の一部が安定化される。これにより、2モード型安定化633nm HeNeレーザーは堅牢で使いやすい設計となっている。ヨウ素分子127I2における飽和吸収信号によって、レーザーの波長精度及び長期安定度が補償される。レーザーの赤色光と青色光の発振モードは、両方とも2.3 x 10-11 τ-1/2の周波数安定度を示す。2モード型安定化633nm HeNeレーザーの周波数安定度は、最近報告された小型・内部共振器型ヨウ素安定化レーザーの安定度の約4分の1であるが、大抵の目的に対してはこれで十分である。2モード型安定化HeNeレーザーは無変調の1.3mW出力光が得られるため、高精度波長計や変位測定干渉計などのアプリケーションに適しているだろう。

青色光モードの周波数変動はファブリ・ペロー型共振器によってモニタリングし、赤色光モードをヨウ素分子127I2の超微細構造にロックする間に、AOMを介して補償する。その結果、どの積分時間領域においても3 x 10-11以上の周波数安定度が得られ、ヨウ素安定化レーザーの短期安定性が改善した。この予備実験では、AOMで発生する時間遅延や「参照共振器」における低フィネス及び広い自由スペクトル領域により、補償ループ・ゲインが制限された。高フィネスで共振器長の長い共振器や高速周波数シフターを用いれば、さらなる短期安定性が期待できるだろう。

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