テクニカルノート

次世代・2光子顕微鏡用レーザー光源「アルコア・シリーズ」

2018年 10月12日

2波長発振・フェムト秒ファイバーレーザー

要約
スパーク・レーザーズ社は世界に先駆け、920nmと1μmの2波長同時発振の堅牢・小型のファイバーレーザーを世に生み出しました。「アルコア」と名付けたこのレーザーは高品質・高ピークパワー・フェムト秒パルスを繰り出し、各波長に対し個別にGDDプリチャープを掛けることができ、各波長のパルス・トレインをシンクロさせたりディレイさせたり等のユニークなパルス制御機構を持ち合わせている。「アルコア」は多光子顕微鏡および神経科学分野のリサーチにおいて、使い易く理想的な光源である。

2光子顕微鏡向け フェムト秒レーザー

1990年に出現した多光子顕微鏡(MPM)は、その卓越した性能ゆえにバイオ・メディカル・サイエンス分野において、様々なアプリケーションへと広がり、未だに進展を続けており留まることをしらない。2光子顕微鏡は、2光子が同時に吸収され分子レベルで起こる非線形効果に依拠しているが、励起状態の分子は2光子・蛍光シグナルを発する形で光子を放射しエネルギーを放出する。この技法は、これまで使用されて来た「1光子・蛍光法」と比較し、多くの優位点があり、バイオ・イメージングの応用、とりわけ神経科学分野に大変魅力的なものとなっている。

2光子顕微鏡法の重要な利点の一つとして、2光子現象による蛍光発生は集光点のみでしか起きず、それにより励起された部位を極小さく制限出来ることにある。そのことで3次元空間分解能を著しく向上させることが出来る。もう一つの優位点として、2光子励起に使用されている800nm~1100nm帯の近赤外波長域は、1光子励起に使用されている可視光領域や紫外波長帯と比較し、生物組織中をより透過し易く且つ拡散し難い。それにより組織内のより深部の3次元画像を得ることが可能となる。長波長使用の利点と百数十フェムト秒というパルス幅の超短パルスを使い、更に極小さい特定部分だけを励起させるため、少ない光損傷で済ませることができ、結果として試料の質を維持することが可能となる。

分子レベルで、2光子吸収を高効率で起こさせるには、励起レーザーからの高いピークパワーが必須になる。その意味において、高繰返し率で、百フェムト秒台の超短パルスを発振するモードロック・レーザーは、これまでも2光子顕微鏡への標準的な励起光源の位置を占めている。

チタンサファイア・レーザーは、超短フェムト秒パルス発振と広い波長帯域(約680nm~約1080nm)で波長可変が可能であることから、慣習的と言っても過言ではない程に科学分野で使用され、多光子励起(MPE)研究にとっての驚くべき科学実験ツールとされている。
しかしながら、チタンサファイア・レーザーには重大な欠点がある。チタンサファイア結晶が持つ効果的なピーク発振波長は780nm近辺であるが、一方、生物学者にとって重要な意味を持つ大多数の蛍光タンパク質は900nm~1100nmのレンジの中にメインの2光子吸収帯をもっている。加えて、生きた細胞へのダメージは780nmの波長から920nmへ変化させていくと著しく減少することが既に知られている。残念ながら、多くの2光子顕微鏡の励起光源であるチタンサファイア・レーザーは920nmへの発振効率は低い状態にある。1000nm~1100nmの長波長レンジを必要とするアプリケーションにとっては、従来のチタンサファイア・レーザーでは発振効率が非常に低く光源としては難しい。反して、イットリビウム(Yb)ベースのファイバーレーザーは、高効率、高ビーム品質、小型でメンテナンス・フリーと経済的でもあり、その意味でもベストな代替え案となって来ている。

図1:主要蛍光タンパク質の2光子吸収帯の比較

その結果、近年、1030nm~1070nm波長レンジを発振するモードロック・ファイバーレーザーの開発が急速に進められて来ており、目的に応じたファイバーレーザー光源が低価格帯で広く市場に出されている。

近年、スパーク・レーザーズ社(フランス、ボルドー市)は、2光子顕微鏡を使ったアプリケーションのニーズに特化した他に類を見ないユニークなファイバーレーザーを開発し完成させた。「アルコア・シリーズ(以下の図2)」である。アルコアは、モードロック・ファイバーレーザーで、超短パルス(<140fs)を80MHzの繰り返しで発振し、波長は920nm及び1040nm(或いは1064nm)である。

図2:ALCOR-920モードロック・ファイバーレーザー(スパーク・レーザーズ社)

アルコア:2光子顕微鏡法と神経科学分野へ特化し設計されたファイバーレーザー

920nmという波長が、大多数の蛍光タンパク質に対して適切な波長であり、且つ組織内での低拡散性と低吸収性から大変好まれる波長であることは先ほど述べた通りである。

1040nm~1060nmという1μmの波長帯は、良く知られている赤いタンパク質(例えばtdTomato, mCherry, mKate2、等)を励起したり、違った細胞の部位を光刺激したりすることに適しており、障害や病気、病理学的理解へと繋がる神経伝達物質や脳神経障害の根本を理解するにおいて欠くことが出来ない。光遺伝学(オプト・ジェネティックス)においても、約1μm発振のレーザー光源は細胞組織内へとより深く浸透し、細胞を励起し活性化させることが出来るので、細胞内の神経活動の理解を容易出来る可能性がある。
一方、チタンサファイア・レーザー技術では、800nm~950nmの波長帯域においては十分性能を発揮するが、1μmレンジに対しては低利得ゆえ十分な出力が出ず、殆どの応用に利用出来るレベルに達していない。ファイバーレーザー技術こそは1μmレンジに適しており、従来のチタンサファイア・レーザーよりも、更に高い平均出力、更に高いピークパワー、高パルス・エネルギーを生み出すことに適している。

近年における神経科学では、図3のイラストにある様に多光子励起への関心が高まっており、一つのシステムに920nmと1040nmの両波長を利用してのアプリケーション開拓にエネルギーが投入され始めている。

  • 920nmの波長は、神経反応の検知とイメージングに使用される。
  • 1040nnm~1060nmの波長は、更に高い平均出力/ピークパワー(>2W)をもって光遺伝学の応用において光活性化を最大限に起こすことが出来るため、良く使用される。
  • また920nmと1040nnm~1060nmの同時使用で、イメージングのS/N比を上げることも可能である。
図3:2波長励起の原理

スパーク・レーザーズ社は、これらのニーズに応えるため、他に類を見ない2波長(920nmおよび1040nm(又は1060nm))同時発振することが出来るフェムト秒パルスレーザーを開発し提供するに至る。この革新的なフェムト秒ファイバーレーザーは、「デュアル・ヘッド・アルコア」と名付け、独特な組み合わせにより実現した。1つのレーザー・プラットフォームをベースに、独立に制御された2つのレーザーヘッドを備えられており、そのレーザーヘッドは顕微鏡の直近にマウント可能であり、先例のない適応性の高さから、卓越した使い勝手を有する製品である。

「デュアル・ヘッド・アルコア」の主要な特徴:

  • 波長 920nmおよび 1040nm(又は1064nm)
  • 各波長最大2W(>180kWピークパワー)
  • 直線偏光
  • 高ビーム品質M²<1.2
  • 超小型ヘッドでマウントが容易
  • 高品質なパルス
  • 各波長に対して独立して群遅延分散・前置補償(0~-50,000fs²)
  • 入力信号とパルス出力のシンクロ機能(低タイミング・ジッター)内臓
  • スマート・エレクトロニクス(高度なリモート診断およびリモート最適化)
  • 空冷
  • メンテナンス・フリー
  • 産業グレード(24時間365日稼働にも耐える高信頼性)

2光子顕微鏡に必要な200fs以下の超短パルス光は、複雑な光学システムを通過する過程で群速度分散しパルス幅が伸びるため、結果として画像の品質を落とすことになる。事前に超短パルスに、ある値の負の群遅延補償をかけておくことが必要となるが、光学システム毎に群遅延分散(GDD)量は違ってくるので、その値に合わせて正確な負の量の群遅延分散(GDD)補償をレーザーシステム側で事前にパルスにかけておけば、光学システムを通過し群速度分散するが、パルスが試料に到着した際に仕様通りの超短パルスとなり、結果、一番高いコントラストの高品質画像が得られる。「アルコア」は、群遅延分散(GDD)前置補償機構をヘッドに内蔵しており、コンピュータ画面上で0 ~ -50,000fs²レンジで分散補償量を細かく数値入力することが出来る。顕微鏡システムによっては、波長毎に光路が別々である等で分散量が異なることもあるので、波長毎に分散補償量を設定してあげる必要がある。アルコアでは各波長に対して独立してGDD前置補償量を細かく制御することが可能である。

オプションとして、各波長のパルス・トレインを定格繰り返し周波数80MHzで同期することが出来る。正確に920nmのパルスと1040nmのパルスを試料面で同調させることが出来る。また、ある実験では、一方のパルスを、もう一方のパルスに対して精度高く遅延をかけてサンプル試料に当てる等の必要が出てくる場合があるが、アルコアはコンピュータ制御にて、定格繰り返し周波数80MHzに対して最大1周期のレンジで高精度に低タイミング・ジッターで遅延をかけることが出来る。

ここまでご説明させていいただきました様に、デュアル・ヘッド・アルコアは、各波長独立してGDD前置補償を最適にかけ、且つ、一方の波長のパルスを、もう一方の波長のパルスに正確に同期させたりディレイをかけたりすることで、最適な光源として、2光子イメージング分野や神経科学分野においての大躍進へのカギとなっている。そして、メンテナンス・フリーではあるが、万が一の際にも、最新スマート・エレクトロニクスを備えているので高度なリモート診断や、リモート最適化を施することが出来、高価な年間のサービスチャージは不要である。

「アルコア」フェムト秒ファイバーレーザーの利点とは?

直感的なインターフェイスで操作性に優れ、平置き横置きの両方どちらでも設置することが出来る(図4)。横置きにすると、平置きと比べ、ヘッドのフットプリントを最小にでき、光軸も高くすることが可能で、ニーズに応じて選択でき、可能な限り試料の直近にレーザーヘッドを設置することも出来る。

図4:「アルコア」 コンパクト・ファイバ-レーザー
151mm x 251mm x 91mm(上図)
レーザーヘッドは平置き(下右図)横置き(下左図)の両方可能

各波長に対し最大2W、140fs未満、180kWを超えるピークパワー、波長920nmと1040nm(又は1060nm)にて、高品質のパルス発振。アルコア920nmの典型的な自己相関トレースは図5に示す様に111fsパルス幅である。

図5:(典型的)自己相関トレース(波長920nm, パルス幅111fs)

24時間365日稼働を前提にした産業用途を基準に設計されており、様々な環境下でも耐えうる堅牢さ故に、いつでも最適な性能を発揮することが出来る。以下の図6は、アルコア920nm2Wの平均出力の測定結果、0.2%rms安定度を100時間以上維持していることを示している。

図6:アルコア920nm2W 平均出力安定性 <0.2% rms(100 時間以上の測定)

多光子励起プロセスは、優れたパルス・エネルギー安定性が必要であるが、アルコアは1%未満の”pulse to pulse安定性”をもっている(図7)。

図7:パルス・エネルギー安定性 1%rms未満

もう1つ重要なパラメーターとなるのがビーム品質で、スポット・サイズと強度分布が2光子イメージングの空間解像度に影響する。ファイバーレーザー技術の利点として、高い平均出力にもかかわらず、卓越したビーム品質を維持出来ることにある。TEM00ビームでガウシアン・ビーム・プロファイルで、更にビーム品質の指標となるM²=1.1(典型値)である。(図8)

図8: ビーム品質測定(M²=1.1)(左図)、ビーム・プロファイル測定(右図)

スパーク・レーザーズ社のフェムト秒ファイバーレーザー「アルコア」は、非線形・励起用途のレーザーとしては、最適且つ理想的な光源であり、いままでにない新レーザー・ソリューションとして、特には神経科学分野の研究者の方々に、in vivoにおけるニューロン(神経細胞)を数百マイクロメーターの深さまでを画像で得られる可能性をもっているとのことで、大変高い注目をいただいている。一例としては、図9は、マウスの大脳皮質のスライスのニューロン(神経細胞)の画像である(蛍光蛋白としてmCherryを使用し1040nmの波長、フェムト秒パルスにより得られた画像である)。

図9: マウス大脳皮質(スライス)のニューロン(神経細胞)を蛍光蛋白mCherry使用、1040nm波長のフェムト秒パルスによりの得られた画像(米国ボストン大学のご好意による)

結論
近年、2光子顕微鏡法による目を見張る高い解像度を持つ3次元画像へ注目度が高まって来ているが、これまでの約20年間は、チタンサファイア・レーザーが唯一の光源だったと言ってよいほど、2光子顕微鏡に使用されて来た。今回、それに替わる独自のレーザー技術を持つスパーク・レーザーズ社のアルコアを紹介させていただいた。アルコアは、まさしくこれまでにない高い性能を持ち、バイオ・サイエンスの分野、特に神経科学のフィールドにおいて、新たな可能性を拓いて行く光源であることに間違いがない。

世界初の920nm及び1040nm(或は1060nm)の2波長同時発振のこのフェムト秒・ファイバーレーザーは、最新のスマート・エレクトロニクスを備えており各波長に対し個別に群遅延・前置補償をかけることができ、各波長のパルスを高精度に同期或いはディレイすることが出来る。堅牢且つ小型のレーザーヘッドは平置き、横置き、下向きに出射させる等々、自由に設置のオリエンテーションを選択でき、更にはフットプリントも小さい為、各波長のヘッドを個別に最適な場所に設置し固定することが可能である。従来の大きなレーザーヘッド筐体と比較すると、取り扱いの自由度が非常に高く、ユーザーフレンドリーなフェムト秒・ファイバーレーザーである。

スパーク・レーザーズ社アルコアを介して、これまでの限界を突破し、新しい可能性を拓き、脳神経科学の理解が深められて行くことを確信しており、更には、癲癇などの神経変性疾患や、或はアルツハイマーやパーキンソン等の病の治療に向けて、新たなプロトコールへの手がかりを見つける鍵を神経科学研究者の方々へ提供することになることを、最後の締めくくりの言葉とさせていただく。

参考文献

[1] K. Koenig, “Multiphoton microscopy in life sciences”, Journal of Microscopy, Vol. 200, Pt 2, November 2000, pp. 83 -104.

[2] F. F. Voigt, Et al., “Multiphoton in vivo imaging with a femtosecond semiconductor disk laser,” Biomed. Opt. Express 8, 3213-3231 (2017)

著者: 仏国 Spark Lasers社 Pascal Dupriez and Guillaume Bouquet (和訳  プネウム㈱ 営業部 堀俊之)

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