アプリケーションノート

ガン細胞代謝物質の指紋から細胞内の酸素濃度測定技術を新たに開発

2018年 10月24日

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生物の分野では、ガン細胞が健康な細胞とは異なる代謝経路を利用することが多いことは一般的な見解であり,それ故酸素消費率は健康な細胞のそれよりも低い。蛍光顕微鏡で細胞内の酸素濃度を測定することが可能であれば、今後の臨床的なガン診断に役立つツールとして蛍光顕微鏡を活用することができるだろう。しかしながら、生細胞内の酸素濃度を測定することは決して簡単なことではない。従来の蛍光体は励起状態の寿命(ナノ秒単位)があまりにも短く、通常マイクロ秒の時間範囲で起こる酸素分子同士の衝突に大きく影響を受けることができない。

酸素濃度のモニタリングを行うTRAST

過渡状態イメージング(TRAST)は、これまでの細胞内酸素濃度測定方法とは違う新技術であり、蛍光体における 基底状態 ‒ 三重項状態(T1)の遷移を利用した手法だ。三重項状態(T1)は光誘起された非蛍光性の分子状態で、蛍光性の分子よりも寿命が長く基本的にあらゆる蛍光分子で見られる。蛍光顕微鏡を変調されたレーザー光源と組み合わせ且つ 変調特性を徹底的に変更することで、三重項状態に於ける分子の動的挙動についての情報を得ることができる。三重項状態は酸素濃度に比例する。蛍光強度がレーザー変調によってどのように異なるのかを画像化すると、蛍光物質の周りの局所的な酸素濃度に関する直接的な情報を得ることができる。過渡状態イメージングTRAST)は検出感度が高く(蛍光読み出しによる)、蛍光分子の環境変化を高感度に検出することができ(長寿命な暗状態の解析から)、幅広い蛍光領域に対応することが可能だ。微弱発光の自家蛍光物質ですら、利用することができる(2,3)。

FL:Follicular l ymphoma/濾胞性リンパ腫〔au:任意単位〕
図1.(A) 特異的代謝をもつガン細胞中の蛍光強度画像(左)と正常代謝細胞内の蛍光強度画像(右)
図1.(B)細胞における三重項状態の死滅する速度を示したTRAST画像。三重項状態の死滅速度は、正常な代謝をする細胞内ではガン細胞内の場合よりも下回っており、正常細胞ではガン細胞に比べて酸素濃度が低く酸素消費量がより高いことが分かる。

ガンに特異的な細胞代謝

高い量子収率をもつ三重項状態のエオシンY溶液を用いて、個人差のあるヒト乳ガンの細胞と線維芽細胞系(1)の細胞をTRASTイメージングにより解析した。ヒト乳ガン細胞株であるMCF-7細胞を様々な培養液で培養し、細胞に対してガン細胞に特異的な代謝をもたせ、あるいは正常細胞に典型的な代謝をもたせた。各培養細胞をTRASTイメージングにて解析し、酸素消費量の違いを確認した。図1で、これらの結果と、正常細胞の代謝をもつMCF-7細胞の方がガン細胞に特異的な代謝をもつ細胞よりも酸素消費量が高いことを示している。

図2. (A)典型的な変調波形
典型的な出力安定性及びRMSノイズ性能
図2. (B)Cobolt製06-01シリーズ・レーザーのノイズ性能

TRASTや蛍光顕微鏡に適したレーザー

TRAST技術は、生細胞内の酸素濃度を測定する方法として将来性のある方法だ。様々な異常細胞の代謝や酸素消費量は変化する。従って、TRASTを利用することで正常細胞と異常細胞(ガン細胞又は感染細胞など)を見分ける手段を得ることができる。TRASTに適したレーザーで、小型・低価格のものがある。これにより、ガンの検出や解析などで今後 使用する機器をおのずと簡略化し価格も抑えることができる。
TRAST用のレーザーは、高信頼性・堅牢性が求められるが、出力安定性やTEM00のビーム位置安定性・高いビーム質の面でも優れた性能特性を発揮する必要がある。レーザーを直接変調できる場合もまた明らかに有利だ。Cobolt製06-01シリーズ・プラグアンドプレイ・
変調可能なCWレーザーは、これら全ての仕様を満たしており、AOM(音響光学変調器)を組み込んだCobolt製変調DPSSレーザーシリーズと同様に、最大250mWの出力で全スペクトル域に対応している。

図3 Cobolt製06-MLDレーザーの典型的なビームプロファイル(上)とCobolt製06-MLDレーザー(下)

結論

TRAST技術は生細胞内の酸素濃度をモニタリングできる手法であることが実証されている。次に、この技術により特徴的な代謝/指紋を通して世界に先駆けたガン細胞の新しい高感度検出としての使用が可能となる。
そうした期待の持てるアプリケーションに最適な多様なCobolt社製レーザー製品をぜひご活用いただきたい。


About the Authors

Dr Elizabeth Illy, Cobolt AB, Stockholm, Sweden.
JohanTornmalm (MSc), Experimental Biomolecular PhysicsGroup, Dept
Applied Physics, KTH

Dr Thiemo Spielmann, PhD in the Experimental Biomolecular Physics
Group, Dept Applied Physics, KTH

Prof Jerker Widengren, Experimental Biomolecular Physics Group, Dept
Applied Physics, KTH


参考文献
(1)Thiemo Spielmannほか (2014).『過渡状態走査・プローブ顕微鏡で見たガン細胞内における酸素濃度変化のパターン』. FEBSジャーナル誌 第281巻, 1317-1332p.

(2)Hevekerl H, Tornmalm J, Widengren Jら (2016).『非蛍光性・過渡状態のときのトリプトファンの蛍光特性 ‒ タンパク質立体構造と相互作用研究の展望』. 科学研究誌 第6巻, 論文番号No.35052

(3)Tornmalm J, Widengren Jら (2018).『フラビン化合物のフォトダイナミクスと過渡状態(TRAST)分光計を利用した環境酸素化と酸化還元条件の未染色モニタリング』Method誌 掲載巻号は未決定

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