本稿では、捕捉されたベリリウムイオンを用いた量子情報処理の用途に適した235nm及び313nmの紫外光を生成する2台のVECSELシステム(垂直外部共振器型面発光レーザー)を紹介する。どちらのレーザーも、小型・単一周波数・CW出力でVECSEL技術を駆使した設計になっており、数10ナノメートルにわたる近赤外域で波長可変できる高出力光を得ることができる。まず一方のシステムは、半導体材料としてGaAs(砒化ガリウム)基板上により大きな格子定数であるGaInAs(砒化ガリウムインジウム)を交互に積層する量子井戸構造をベースにした利得ミラー(半導体多層膜反射鏡)を用いると、波長940 nmにおいて2.4Wの出力を生成することができるが、これを波長変換すると出力54mWの235nm紫外光を発生させることができる。もう一方のシステムは、GaAs上GaInAsに窒素を1%程度導入するGaInNAs材料を用いる量子井戸構造をベースにした画期的な利得ミラー(半導体多層膜反射鏡)を用いており、GaAs半導体層における格子歪を緩和させて長波長化することができる。このレーザーは、波長1252 nmにおいて1.6Wの出力を生成することができ、波長変換することで出力41mWの313nm紫外光を発生させることができるので、レーザー冷却した9Be+イオンの捕捉や量子状態の準備及び検出に用いることができる。313nm紫外光レーザーはさらに忠実度の高い量子ゲート(量子演算回路)動作にも適しており、より広く言えば、本研究はVECSELシステムが原子・分子・光物理学研究におけるアプリケーションにも適した装置として、その機能拡張性を実現することを確認するものである。