テクニカルノート

光周波数標準と計測

2020年 06月29日

PDFダウンロード
英文/English 和文/Japanese

Leo Hollberg, Associate Member, IEEE, Chris W. Oates, E. Anne Curtis, Eugene N. Ivanov, Scott A. Diddams, Thomas Udem, Hugh G. Robinson, James C. Bergquist, Robert J. Rafac, Wayne M. Itano, Robert E. Drullinger, and David J. Wineland

招待論文

要約 - 本論文では、2つの高正確性と高安定性を持つレーザー冷却式の原子周波数標準の性能特性と周波数計測を説明します。1つは 2 次元磁気光学トラップCa 原子を使う657-nm(456-THz) リファレンスであり、もう1つは RFポールトラップで閉じ込められた一つの Hg+ イオンに基づく282-nm (1064-THz) リファレンスです。非線形の極小構造と組み合わせたフェムト秒モードロックレーザーが、光モードの広くて安定したコムを生み出し、それを使って原子標準にロックされているリファレンスレーザーの周波数を計測することができます。この計測システムは主要な周波数水準 NIST F-1、 Cs原子泉時計を参照されております。
どちらの光標準も、長期間に亘る優れた再現性に加えて、例外的な短期の不安定(1秒当たり ≈ 5 × 10 -15 )を示します。光周波数標準の将来の期待の下、本論文では、フェムト秒光周波数コムの限界と将来の必要条件とともに、現在の性能を検討します。

I. 序論

安定したレーザーで探知された原子とイオンのスペクトル的に狭い光遷移が、今や高正確性と高安定性を有する周波数標準の次世代として登場しようとしています。有名なマイクロ波対応物を凌駕する光標準の主要な利点は、より高い動作周波数です。この事実が開くのは、桁違いに良い周波数安定性であり、原理的に動作周波数の比


によってです。

ここ数年の革新的な展開によって、非常に安定したレーザーと光周波数を数えるための新しい実際的な方法を含め、我々は今や光周波数リファレンスの可能性を実現する手段を手に入れつつあるように思われます。
ここで2つの異なる光周波数標準に焦点を当てたいと思います。1つは ≈ 10 7 個のレーザー冷却Ca 原子を使用する657 nm (456 THz)標準であり、もう1つは単独で閉じ込められてレーザー冷却されたHg+ イオンを使用する282-nm (1064-THz) 標準です。これら2種の標準の動作を簡単に説明した後で、それらの現在の性能を概説し、それらの将来の可能性を一瞥することにします。

Manuscript received April 11, 2001; revised July 11, 2001.
L. Hollberg, C. W. Oates, S. A. Diddams, H. G. Robinson, J. C. Bergquist, R. J. Rafac, W. M. Itano, R. E. Drullinger, and D. J. Wineland are with the National Institute of Standards and Technology, Boulder, CO 80305 USA.
E. A. Curtis is with the with the National Institute of Standards and Technology, Boulder, CO 80305 USA, and also with the Physics Department, University of Colorado, Boulder, CO 80309 USA.
E. N. Ivanov is with the University of Western Australia, Nedlands, 6907,Australia.
T. Udem is with Max-Planck-Institut fürQuantenoptik, 85748 Garching, Germany.
Publisher Item Identifier S 0018-9197(01)10049-7.

仮定を単純化することで、冷却原子光周波数リファレンスで達成しうる安定性を推定することができます。それから、Hansch と彼の協力者やHall と彼の協力者らによる158最近のコンセプトと発展を採用するフェムト秒(fs)モードロックレーザーベースの光周波数測定システムについて説明します。最近、このシステムを使用してNISTにあるCs一次周波数標準器と比較して2つの光標準器の周波数を測定しました。光標準器の絶対的な正確さへの疑問が要求する組織的なエラーと不確実性の詳細な評価であり、それは多数の標準器との比較によってのみ可能でしょう。この検証は将来まで待たなければならないでしょうが、フェムト秒光コムは今、RF 領域と光領域間のコヒーレント接続に加えて、異なる光標準器間の直接的な相互比較を行うための便利な手段を提供しています。この新しい計測能力の多さ故に、世界中の研究グループが新たな熱意を持って光周波数標準器を追求しています。

本論文ではフェムト秒光周波数コムの性能に関する若干の基本的で実際的な限界も検討します。光標準器の安定性と予測精度は、光周波数距離測定の性能に厳しい要求項目をつきつけます。それにもかかわらず、これらのシステムはこれまで我々がマイクロ波原子標準器で可能であったことを大きく越える原子周波数安定性の世界を探究することを可能にします。
この論文の一般的な目標は、私達の研究分野の急速に変化する状態に関する現状報告書を提供することです。この時点で、現在の結果がまもなく時代遅れとなると安全に予測することができます。これは本当に原子周波数標準器と計測の革命的な時代です。私達は、以前には構想されてはいたものの、今まで探求不能であった安定性と正確性における途方もなく大きい進歩を経験し正に始めつつあるところです。

急速な改良は、1983年のJennings らによる先駆的な業績で起こった正確さの飛躍を思い出させるもので、その時、光周波数は高調波周波数チェーンを使って計測可能であることを彼らが最初に実証したのです。(39) 彼らのシステムは、マイクロ波からスペクトルの可視範囲までの一連の高調波にロックされている連続的に上昇する周波数を発生する一連のレーザーで構成されていました。2351その瞬間から1990年代後期まで、光周波数計測での精度は ≈ 10 -10 ~ 10 -13 という限定的な範囲の周波数で改善され続けました。今や結合された効果、つまりより安定したレーザー、冷却原子とイオンを使用するより良い原子レファレンス、そしてフェムト秒光周波数測距法の結合は、ほんの2年でほぼ2桁の性能向上を果たしました。さらに、フェムト秒モードロックレーザーベースの測定システムは使用に当たりより実際的です。歴史的に、新しい光周波数計測が(すでに)数年ごとに報告されていましたが、1999年のオクターブの広さに及ぶ光周波数コムの導入から短期間で10を超える新しい光周波数計測法が報告されました。

II. 光原子周波数リファレンスとしてのレーザー冷却原子とイオン

私達は現在2つの光周波数標準を開発中です。どちらも先に詳細に亘って説明いたしました4552ので、ここではほんの短い説明だけを行います。

A. イオンへの考慮
(48) 閉じ込められたイオン、特に単一のレーザー冷却イオンが光周波数標準と時計67として多数の利点を持っています。最も重要なこととして、イオンは RF トラップで閉じ込められ、レーザー冷却されて、探査放射(いわゆるラム - ディッケ限界)の残余動作の強度が光波長よりずっと減少することとなります。このことが速度に依存するドップラー拡がりと、プローブ放射に関連するイオンの動きに関連するドップラーシフトをほぼ除去します。低温の環境下では、イオンは原子衝突があってもほとんど乱されることはなく、黒体輻射の効果も非常に小さなものとなります。トラップでの単一イオンの保持時間は数カ月となり得、それ故、プローブ相互作用時間は制約を受けることはなく、非常に高いQ共鳴の観察を可能とします。最高度の正確さの達成を望むのであれば、これらすべての要因は決定的に重要です。

(55) 単一イオンによる光周波数標準を構築するという技術的挑戦は手ごわいものですが、単一イオン標準器が現在、世界のひと握りの研究所で達成されております89。NISTにて、閉じ込め 199 Hg+ イオンによる光周波数標準器が開発中です。この標準器の性能は、最良のマイクロ波標準器の性能と即座に競合することができ、安定性、周波数再現性と正確性の点でそれら(既存の)の標準器を上回る可能性を持っています。

(58)一個の 199 Hg+ イオンを小さい RF ポールトラップ(内寸 ≈ 1 mm)の中に閉じ込め、194-nmの放射光を使用して数ミリケルビンまでレーザー冷却します。冷却と時計遷移の適切なエネルギー準位が図1に示されます。563 nmで1 Hz未満の線幅の高安定度ダイレーザーの周波数を2倍の282 nm (1064 THz)として、時計遷移をプローブします。10282-nm遷移での6.7 Hzという狭さで計測された線幅が最近報告されました11。秒としての平均時間τに関して、単一のHg イオン使用の光周波数標準器の推定不確かさは<1 x 10 -15 τ - 1/2 であり、1 x 10 -18 に近い部分周波数不確実性が使用可能と思われます12

B. 中性原子への考慮
(64) いくつかの中性原子も比較的外部摂動に鈍感な狭い光遷移を持っており、光周波数標準器13として魅力的です。中性原子はイオンと比較していくつかの長所と短所を持っています。

Fig. 1. Hg+ energy-level diagram.
Fig. 2. Ca energy-level diagram.

レーザー冷却およびレーザートラップという確立された技術を使用することで、かなり容易に低温での閉じ込めと冷却が可能となります。ただし、イオンとは対照的に、中性原子の閉じ込め手法は原子エネルギー準位を摂動し、周波数標準器として使用するには不適格です。トラップに関わるドップラー拡がりと遷移を避けるため、中性原子をトラップから開放してから、時計遷移をプローブします。原子は重力の影響によってトラップから落ち、低い熱速度(典型値としては数センチメートル毎秒)で膨張します。結果として生じる原子の動きは、速度に依存する周波数遷移に関連する正確さ(および安定性さえも)に重大な限界をもたらします。より厄介な効果の2つとは、観察時間が限定されることと、波面の歪みとベクトル不整合に関連する1次ドップラーシフトを完全には排除できないことです。これらの動きの効果は、重力ポテンシャル内の中性原子によって達成される可能性のある究極の正確さに対して重大な制約をつきつけます。観察時間が減少し、発振線Q、安定性および正確さが制約をうけます。ただし、中性原子は少なくとも1つの重要な利点、すなわち多数の原子を用いることができ、短時間での大きなSN比と例外的に短期間の安定性が持つ可能性を生み出すことができます。

(79) Ca原子光周波数標準器は有望なケースの1つです。なぜなら、それは狭い原子共鳴を持つため外部摂動を合理的に免除され、容易にレーザー冷却とレーザートラップされ、なおかつ適切な遷移が発振波長調整可能なダイオードレーザー5でアクセス可能である故に実験的に都合が良いといういくつもの理由があるからです。単純化されたエネルギー準位図が図2に示されます。

(81) 423-nm遷移に調整済の周波数2倍化ダイオードレーザーが、約10 7 個の Ca 原子を冷却し、約5 msで光磁気トラップ(MOT) にトラップします。冷却放射を停止し、657-nm (456-THz)の注入同期安定化ダイオードレーザーで、光ラムゼーフリンジ14の個別励起法によって時計遷移を探ります15。我々が実際に採用する励起テクニックは Borde によって導入された4パルス進行波法です。1617高い SN比を持つ光干渉縞は、冷却遷移でシェルビング法を使用すると観測できます。測定される干渉縞幅はプローブ領域のラムゼー時間に依存し、200 Hzから11.5 kHzまで広がっています。 現在の Ca+標準器は、960-Hz 幅のフリンジを使用する約 4 × 10 -15 τ -1/2 の短期のわずかな周波数不安定を提供できます。18装置と低温Ca 原子への修正を加えることで、このシステムがおよそ1 × 10 -16τ-1/2の不安定性に達するはずであると推定できます。 最近まで、Ca 標準に於ける体系的な周波数シフトを制御したり評価したりすることについてあまり注意が向けられてきませんでした。(下に論じられる)フェムト秒光周波数測距法と Hg+ 標準器と Cs原子泉標準器の近接(180 m の光ファイバー距離)の到来によって、今、高精度相互比較を用意し、正確性を究極的に決定できるであろう組織的な効果を研究し始めることができます。私達はちょうどこの評価プロセスを始めようとしており、予期されるように、速度依存の周波数シフトは制御するのに最も挑戦的であると思われます。私達の現在の実験的な装置は、その正確さ故に456 THzにて±26 HzのCa 光周波数標準器への不確定性を割り当てます。19

III. 安定性必要条件と可能性
(94) 1 × 10 -18ほどのわずかな周波数不確実性が単一トラップイオン光標準12に関して予想されてきました。この意欲的な目標値は現在の最先端周波数標準の3桁越えであり、(これから)取り組んでいく必要のある多くの技術的チャレンジに焦点を向けさせます。原子時計の次世代がこのレベルの正確さに達するためには、例外的な短時間安定性を必要とするでしょう。

(97) 単純化想定下にある原子標準で達成可能な短時間安定性を見積もることができ、そこではローカルな発振器(この場合安定化レーザー)の周波数ノイズを無視することができ、かつ、原子の予測ノイズ制限検出を達成できます。2122。安定性あるいは不安定性は、最も一般的には2つのサンプルでのアラン分散として表現され、付記で概説されている通り、平均時間τの機能としてわずかな周波数不安定をもたらします。我々は原子共鳴が周波数ν0の線幅△ν(FWHM (半値全幅))の中央に位置し、システムがラムゼー時間TRにてラムゼー共鳴法を採用し、原子共鳴の片側で原子N0を検出することを想定します。原子の共鳴線の両側の完全計測によって中心周波数が決定され、1サイクル時間Tc内で完了します。

(101) これらの仮定と付記の分析により、原子周波数参照(アラン偏差によって得られる)でのわずかな周波数不安定性を以下のように表現できます。


(103) これは7の結果に基づいた合理的な仮定です。留意したいのは、低温サファイア共振器を使用するマイクロ波発振器で優れた短期不安定性を達成できるということです。205354

(102) Fig. 3. いくつかの高品質の標準器の周波数不安定性(アラン偏差にて)を計測。(右上から左下に向かって)我々の光周波数計測のために使用する水素メーザー、西オーストラリア大学低温サファイア発振器22で稼働するLPTF Cs原子泉標準器、我々の原子 Ca 光標準器とCaリファレンスキャビティ10の比較、そしてHg 光標準器18に使用する2つの光学式キャビティ。

(105) この表現が想定しているのは、100%のコントラストを持つ正弦波様フリンジ形状、ラムゼー時間 TRで得られる干渉縞 – 幅、共鳴 p0 = 1 における最適遷移確率および最大勾配のための最適な再調整δ0=(△νram)/2です。実際の実験のほとんどでは、これらの理想的な状態は満足されず、そのため不安定性は予測値よりも大きくなります。こうして正弦波様フリンジ形状には減衰したコントラスト0<p0<1、 FWHM (半値幅)線幅△νおよび共鳴δ0からの名目上の再調整が行われ、ライン形状傾斜係数Cを次のように定義します。

C = Po sin[πδ0/Δν]

この式はその不安定性から次の形に導かれます。


P+ とP-は共鳴±δ0から名目上の再調整を行った周波数の両側の遷移確率を意味します。

(110)もしこのサイクル時間Tcが、1/△νよりも顕著に長い場合、計測サイクル中の超過デッドタイムが発生し、安定性は劣化します。これは現代の標準器にもしばしば当てはまることであり、その理由はレーザー冷却とトラップに掛かる時間、または励起状態が落ち着くのを待つ時間、または適切な SN比を得るために長い検出時間が必要とされるからです。

(112) 投影ノイズ限界では、σy(τ)は平均時間τの逆平方根として変化するので、妥当な時間内に高い正確性を達成するには、卓越した短時間安定性を必要とするということです。例えば、高品質のクォーツベースのローカル発振器は、約 1 × 10 -13 の不安定性を持ち、マイクロ波原子泉時計は、約 1 × 10 -13 τ -1/2 の不安定性を持っています。この不安定性だと、現在の不確実性限界である ~1 × 10 -15 に到達するのに約3hの平均化時間を要します。我々の光標準器は約10sで~1 × 10 -15 の不安定性に達することができ、さらにこれを大きく越えて行く可能性も有しています。(マイクロ波原子標準器の短期不安定性を改善する方法も追求できます2356が、部外者の見地からは、光周波数を使ってすでに可能なことと比較して困難な戦いであるように思われます。)図3が示すのは、数種類の高安定性周波数参照器の短期不安定性(の比較)です。

(118) 合理的な平均時間(すなわち1日)で1 × 1 -18 のわずかな周波数不確実に達するため、~ 3 × 10 -16 τ -1/2 の原子参照の短期不安定を必要とします。
ただ、もしクオーツベースのローカル発振器に限定されてしまうと、約1 × 10 -13 τ -1/2 で平均を開始し、1 × 10 -18に達するために実際的ではないτ = 10 10 s(~300年)を要することになります。

(120) 原子周波数安定スケールが1 / ν0なので、他のすべての条件が同等であれば、マイクロ波から光周波数へのシフトは短時間安定性を10 5 の係数で改善するはずです。こうして、未来の光標準器が光格子あるいは約1ヘルツの線幅と10個の原子を使用する原子泉手法(今日のマイクロ波泉時計で使われるそれらに類似している)を用いて0.5sごとに検出を行えるようになることを想像できます。理論的には、これらのシステムはσy(τ) ~ 2 × 10 -19 τ -1/2 の不安定性を実現できます。この極端に単純化した推定は、性能を低下させるであろう重要な複雑な問題を無視しています。それにもかかわらず、この推定が約束するのは、あと数年で光周波数標準を使用して多くの改善が見られるようになるということです。

PDFダウンロード
英文/English 和文/Japanese
PAGETOP