テクニカルノート

Photon Systems社製 深紫外レーザーが火星に飛行!

2021年 03月22日

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はじめに:

近年、火星生命探査のミッション機器としてラマン分光とルミネセンスを組み合わせた顕微探査装置「SHERLOC」(SHERLOC: Scanning habitable environments with Raman & luminescence for organics & chemicals)を「Mars 2020」統合ペイロードに搭載することが提案された。「SHERLOC」は、高空間分解能、非接触、高感度の検出を特徴としており、火星の地表及び地表付近における有機物及び鉱物の特性評価が可能である。「SHERLOC」の最終目標は、火星における過去の水の歴史の調査、生命痕跡の存在と保存状態の検出、そして回収サンプルの選択の支援である。この目的を実現するため、「SHERLOC」を用いてCHNOPS元素(シュナップス = 地球上の全生命体の構成要素として知られる6種類の基本元素:C炭素,H水素,N窒素,O酸素,Pリン,S硫黄)を含有する鉱物類の測定、火星表面に残存する有機物の分布や種類の同定、およびそれらの組成の同定を行う。


SHERLOCはアームに取り付けられた深紫外(DUV)共鳴ラマン分光および蛍光スペクトルメーターであり、248.6-nmのDUVレーザーで50ミクロンのスポットサイズを探査する。このレーザーは自動焦点/スキャン光学システムに組み込まれており、30μmの空間分解能の環境イメージャーと共照準の設定が施されている。SHERLOCは内部スキャンミラーを使用して7×7mmのエリアを探査する。MAHLI(火星用ハンドレンズイメージャー)遺産自動焦点メカニズムと連動する500ミクロン深度の視野は、探査車のアーム位置変更/動作無しで天然あるいはすり減った表面の上に48±12.5mmの範囲でアーム固定を可能とする。さらに、~25ミリの深さまでのボアホール内部を±20度までの直角入射からの角度で分析できる。
深紫外光による自然蛍光発光は濃縮炭素と芳香族有機化合物に対して非常に高感度であり、空間スケール<100µmにて10-6w/w(1ppm)以下の検出を可能とする。SHERLOCの深紫外共鳴ラマンは、空間スケール<50µmにて10-2から10-4w/w未満までの感度で芳香族および脂肪族有機化合物の検出と分類が可能である。有機化合物に加えて、深紫外ラマン分光は20µm未満の粒重サイズで水化学に関連する鉱物の検出と分類を可能とする。

科学的到達点と目的:

SHERLOCは、水の歴史に関する理解と生命にとっての主要素とエネルギー源の特定を含む古代現場の生息可能性を評価する。
SHERLOCは、有機化合物の性質と分布を調査することにより、残存している潜在的な生物痕跡があるかどうかも判定する。SHERLOCは隠れている資料の特性評価も行う。SHERLOCはコア調査の代わりとして地中にくり抜いた25mmまでの穴の調査を行う。

他のテクニックを超えるDUVラマン分光と蛍光分光の利点:

SHERLOCの調査は2つのスペクトル現象、自然蛍光発光および共鳴/前期共鳴ラマン分光散乱の共用として行われる。高輝度狭線幅のレーザー光源がサンプルを照射するとこれらの事象が発生する。蛍光発光する有機化合物は励起光子を吸収し、より長い波長で再発光する。励起波長と発振波長間の相違は、増大する芳香族構造(すなわち芳香族環の数)に伴って増加する電子遷移の数を示す1。これは非常に効率的な事象であり、断面積でラマン散乱の10の5乗倍の典型値を持ち、<1pgの炭素を含む微生物の細胞の検出を可能とし、微量有機物を検出する強力な手段となる。2


有機化合物の自然蛍光発光は270nmから可視領域まで分布する。逆に、結晶欠陥と不純物に由来する鉱物蛍光発光は、深紫外での強い吸収特性を持たず、結果的に鉱物蛍光発光は360nmからNIR(近赤外)領域まで分布する。250-360nm領域で唯一報告された非有機物質の報蛍光発光は、天体物理学条件とは無関係である。我々の研究所での15年以上に亘る実験から、<360nmの波長での蛍光発光で鉱物マトリックスに捕えられた有機化合物に起因しないものは無かった。この結果がとりわけ有用なのは、深紫外ラマン分光計測が自然蛍光発光の影響を受けないことを可能にするからである。3
SHERLOCの狭線幅248.6nmDUVレーザーが、無蛍光発光領域(250–270nm)内でラマン散乱フォトンを生成することにより、芳香族、脂肪族有機物および鉱物へのさらなる特性同定も可能とする。DUV波長による励起は、励起光子エネルギーと振動エネルギーを結合させることにより、有機化合物/鉱物振動結合の共鳴/前共鳴信号増強(<100~10,000倍)を可能とする。3DUVラマン分光は、レイリー則(∝1/λ4)を利用して、532nmで20倍の散乱効率、785nmで100倍の散乱効率も得られる。この手法は高強度の励起フォトンを必要とせずに高感度計測を可能とし、そこでのDUV感度は、サンプルに150倍のエネルギーを掛ける必要のある可視ラマン分光システムの10~100倍の感度を示す。そのため、この技術は過塩素酸塩などとの反応を誘起して起こる有機化合物の損傷や変質を回避できる。


テストベッド#1が上図に示される。この研究所ベースの装置はASTID、NSFおよびNAI資金により開発された。この(研究所ベース)装置は、火星SHERLOC版と同一の光学パラメータを持ち、そこに含まれるのはコンポーネント(レーザーとCCD)、分光器解像度およびフォトン集積(ここで提示されるデータを集積するために使用される)である。2020年バージョンと同一の形状をもつ装置の飛行タイプは、現在テスト中である。

「イチジクの木」での試し計測:

SHERLOCのテストベッドを使用して、「イチジクの木」グループ456から入手した天体生物学的に興味深いチャート岩の一部の分析が提示される。「イチジクの木」グループの小片を、数センチメートルの長さで酸素分子プラズマを用いて洗浄した。
サンプルの環境イメージを獲得する。内部スキャンミラーを用いて、50ミクロンレーザースポットを表面に組織的に走査する。同じCCDにより、250-360nmの範囲のスペクトルが得られる。蛍光発光領域(>270nm)の分析から、有機化合物が存在する領域が特定される。蛍光発光スペクトルの分析により、存在する芳香環の数が特定され、有機化合物高含有領域も特定される。高感度を達成するため、複数のレーザーショットスポットに向けて照準をあわせ、特有のラマン分光スペクトルを入手できる。右側のラマン分光スペクトルは、環境イメージにある2つの円の部分からの結果である。
このデータの考察から得られる我々の分析結果は以下となる:


  • チャート岩は一様には(熱)変成されなかった。-炭素の熟成変化から圧力/温度への露出が明白である。
  • 大多数の基盤は熱的に成熟した炭素である。-無煙炭状態から亜瀝青炭状態
  • ずっと若い炭素を含むシリカの侵入が、主要基盤に侵入した。
    基盤内の生物痕跡保存の可能性はサンプルの熱の歴史のために低く、熱変成を受けていない鉱脈物質内では高い。

<参考文献>

[1] Bhartia et. al. (2008) App Spec. 62, 1070-1077

[2] Bhartia et. al. (2010) AEM. 76, 7231 – 7237

[3] Asher, S. and Johnson. C.R., (1984), Science, 255, 311-313

[4] Tice et al. (2004) Geology, 32, 302– 318

[5] Hoffman A. and Harris, C. (2008) Chemical Geology, 257, 221-239

[6] Schopf, J.W. and Barghoorn E.S (1967) Science, 28, 508–512. Acknowledgements: ここで説明される研究はジェット推進研究所、カリフォルニア工科大学で実行された。

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