テクニカルノート

一次体性感覚野と二次体性感覚野における文脈依存的な感覚処理に関する考察

2020年 08月27日

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はじめに

本稿では、脳の特性評価に適した設計(Jerry L. Chen他, 2016年)に基づく、独自に開発された「制御用」の画像解析ソフトウェア「Scope」で、カスタム仕様の共振型スキャナを搭載した多領域2光子顕微鏡から画像データを処理し、マウスの神経活動の解析を行った。

赤色蛍光Ca2+センサ「RCaMP1.07」を用いたin vivoイメージングの光源としては、波長1040nm, 繰り返し周波数40MHzのSpark Lasers社のファイバーレーザーを用い、顕微鏡用の対物レンズ(ニコン社製、水浸、16倍、開口数0.8)を通して、一次体性感覚野と二次体性感覚野のそれぞれの領域における各ニューロンに対し、2つのビーム伝送路にて「時分割多重」方式で観察を行った。

本稿で用いた2光子顕微鏡は、フレームレート32.6 Hzでの高速画像処理を実現しており、その他の仕様としては、Spark Lasers社製1040nm励起固定レーザーとSemrock社製光学フィルター(AVR Optics社から入手可能、蛍光用「バンドパス」フィルター、697/75nmnm, 525/45nm)を搭載している。1040nmの励起光を照射している間に、光学フィルターを用いて、遠赤色蛍光タンパク質「mCardinal」 または 改変型の緑色蛍光タンパク質「eGFP」を発現させ可視化することで、マウスの脳の「一次体性感覚野から二次体性感覚野」への投射ニューロンと「二次体性感覚野から一次体性感覚野」への投射ニューロンのin vivoでの動態を、それぞれ識別することができた。

青色蛍光タンパク質「mTagBFP2」を発現させて神経細胞の標識を行った際には、Spectra Physics社製チタンサファイヤレーザー(モデル名:Mai Tai HP、励起波長:860nm)とAVR Optics社製光学フィルターを用いて、軸索終末に到達したときの神経動態を同定した。

要旨

我々の脳は、環境を解釈するために、過去の経験から習得した「脳内表象」に対する外部刺激に対して「判断」をしなければならない。一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)がこれまでの経験によってどのように刺激を処理するのかはわかっていない。本稿では、投影ニューロンや局所的な光遺伝学的不活性化による複数の脳領域におけるニューロン集団の同時イメージング手法を用いて、ヒゲ刺激に対しての「作業記憶」課題に対するマウスの実行成績(performance)を研究した。その結果、現在の刺激、過去の刺激の想起(手がかり再生)刺激のカテゴリー化(情報を整理し判断すること)を反映するニューロンの活動が、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)で分散されていることが分かった。このように刺激に対する「表象」が重複していても、二次体性感覚野(S2)は、手がかり再生に対する応答処理を行い、一次体性感覚野(S1)にこれらの応答を伝えるために重要である。二次体性感覚野(S2)のネットワーク特性は、一次体性感覚野(S1)のものとは異なり、受動的条件において、手がかり再生と刺激のカテゴリー化を「持続的」に符号化する。一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)の両方の領域は、刺激のカテゴリー化を符号化するが、一次体性感覚野(S1)の情報だけが必ずしも二次体性感覚野(S2)を経由しないで課題を実行するという点で重要である。これらの発見から、「文脈依存的な感覚処理」を行う一次体性感覚野(S1)および二次(S2)体性感覚野における各ニューロンの「分散的」かつ「個々」の役割が明らかとなった。

Ref:文脈(先行する一連の刺激によって活性化された脳内のひとまとまりの情報)
Ref:作業記憶(作業や動作に必要な情報を一時的に記憶し処理する能力)
Ref:表象(representation:ニューロンが情報を符号化する内容)
Ref:手がかり再生(何らかの手がかりを利用して、ある標的となる情報に関連した情報を思い出して報告すること)

序論

感覚刺激がどのように解釈されるかは、それが知覚される文脈に依存する。この文脈には、周囲の環境における感覚的な場面からの別の入力された刺激が含まれるか、あるいは関連する過去の感覚体験および運動の発現中の脳内表象から構成される(KhanおよびHofer著、2018年)。文脈依存的な感覚処理によって、過去の刺激と現在の刺激が統合および比較されることを反映することができる新たにカテゴリー化された刺激の表象を生成させることができる(Millerら著、1991年; Romoら著、2012年)。そのようなカテゴリー化された表象を生成するために、新皮質がどのように組織化されている(organized)のかはほとんど分かっていない。感覚皮質は、高次領域の各ニューロンがさらなる不変的な情報の表象を可能とする一次領域と高次領域に分離される(percellated)(DiCarloら著、2012年; 北田亮ら著、2016年)。しかしながら、文脈依存的な感覚処理が、これらの皮質領域にわたって、どの程度、「連続的」かつ「階層的」に(FellemanおよびVan Essen著、1991年)または「分散的」に(RumelhartおよびMcClelland著、1987年; Siegelら著、2015年)行われるのかは依然として議論の的となっている。

近年、ますます大規模に細胞記録の技術が利用できるようになり、ニューロン間の神経活動の多様性や皮脂領域において存在する動的相互作用に関して徹底して調査を行うことができるようになった(Junら著、2017年; Sofroniewら著、2016年)。課題に関連する情報を符号化することで、その課題に関連する皮質領域において高度な「分散」が可能であるということが新しい証拠から分かっている。このことは、知覚的に情報処理を行うための「分散型ネットワーク」という概念を支えている(Chenら著、2016年; Hernandezら著、2010年; Koayら著、2019年; Mindererら著、2019年; Steinmetzら著、2018年)。しかし、機能的な記録だけでは、そのような広範囲の信号が皮質領域内の「局所的」な情報処理によるものなのか、他の接続された皮質領域からの情報の継承によるものなのかについての洞察は得られない。従って、「ニューロン集団による情報の符号化」や皮質領域間の情報の流れも追跡する必要がある。さらに、皮質領域内で局所的に利用できる情報が、感覚駆動性によって生じる行動に必要であるかどうかを決定するために、各皮質領域間に機能的摂動を与えなければならない。

ここで、一次(S1)と二次(S2)のマウスのヒゲの体性感覚野がどのように機能するのか、およびマウスに対する触覚刺激とその刺激に関連した文脈処理を行うためにどのような相互作用がなされるのかを検討した。一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)で多領域イメージングを行ったところ、両方の領域が1) 現在の刺激、2) 最近の刺激表象の「想起」、3) 文脈情報としての刺激を反映するニューロン活動を行う「分散的」な符号化が存在することが確認できた。しかし、ここでは、解剖学的に同定した皮質投射ニューロンにおける局所的な光遺伝学による不活性化および神経活動の測定を通じて、一次体性感覚野と二次体性感覚野の機能的役割は同一ではないが、近時(recent)記憶での感覚刺激の処理が二次体性感覚野に起因する可能性があることを示す演算プロセスを反映しており、その一方、先行刺激の処理および文脈依存した刺激の処理は、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)で並行的に「分散」されていることを説明する。

Ref:想起(学んだ内容を思い出すこと)
Ref:摂動(特定の入力細胞の神経活動を特定のパターンで活性化あるいは不活性化させること)

結果

触覚作業記憶を必要とする課題における神経細胞集団の多領域同時イメージング

図1:「遅延非見本合わせ(DNMS)」課題中の一次体性感覚野と二次体性感覚野における多領域2光子励起イメージング

(A)行動課題テストの模式図

↓ 前後に回転可能な回転軸
↓ ヒゲの位置情報 position
pre/sample/in the early of delay period/in the late of delay period/test/ report
刺激提示前 見本刺激提示期 遅延期間の前期 遅延期間の後期 比較刺激提示期 行動指標
↓ 反応時間 1.4秒/1.2秒/1.2秒/2.0秒/1.2秒/1.2秒/2.0秒/Δt(刺激を受けてから反応するまでにかかる時間)


ヒゲの動き: 前 → 後 / 後 → 前
提示された見本刺激と比較刺激が不一致「Go課題」

ヒゲの動き: 前方向を維持 / 後方向を維持
提示された見本刺激と比較刺激が一致「No-Go課題」

(B)2光子イメージング実験による行動課題成績の解析。ニューロン活動の記録中における全体的な課題成績 および 試行条件毎の課題成績。個別飼育のマウスによる課題成績は◯で示し、集団飼育のマウスによる課題成績の平均値は●で示している。エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。

d’遅延時間 / Correct trials正反応試行(%)/ 試行条件

イメージング中の全体的な課題実行成績 / 前 → 後 / 後 → 前 / 前方向を維持 / 後方向を維持

(C)
左画像:ウイルスベクターを用いて、一次体性感覚野と二次体性感覚野に蛍光を発するカルシウムインジケーターを発現させ、さらに投射ニューロンを標識した多領域イメージング実験の模式図
中画像:緑色蛍光タンパク質(Green fluorescent protein : GFP)を発現するマウスの一次体性感覚野と二次体性感覚野のin vivo(生体内)2光子画像
スケールバーは100μmを示す。

右画像:脳定位固定装置(Behavior Rig)にマウスの頭部を固定し、この装置を多領域2光子顕微鏡下へ設置してヒゲの動きを観察した様子


二次体性感覚野(S2)

rAAV-Cre:Cre依存型の組換えアデノ随伴ウイルス(rAVV)を使用
AAV-fio-mCardinal/BFP:個々のニューロンの活動を観察するために、アデノ随伴ウイルスを注入し、酸素濃度(FiO: fraction of inspiratory oxygen)を可視化。さらに、アデノ随伴ウイルス粒子は極めて小さいため、遠赤色蛍光タンパク質mCardinal および BFP(青色蛍光タンパク質)との融合タンパク質として発現させた様子
AAV-RCamp1.07:アデノ随伴ウイルス および 遺伝子コード型赤色蛍光Ca2+センサ「R-CaMP1.07」の使用

一次体性感覚野(S1)

AAV-dio-GFP:アデノ随伴ウイルスを注入し、光活性化タンパク質のdoublefloxed inverted open-reading-frame (DIO) を発現させる。しかし、アデノ随伴ウイルス粒子は極めて小さいため、GFP(緑色蛍光タンパク質)との融合タンパク質として発現させた様子
rAAV-Flpo:Flp (Flpo)依存型の組換えアデノ随伴ウイルス(rAVV)を使用}
AAV-RCamp1.07:アデノ随伴ウイルス および 遺伝子コード型赤色蛍光Ca2+センサ「R-CaMP1.07」の使用

Multi-Area 2-Photon Microscope:多領域2光子顕微鏡
Behavior Rig:脳定位固定装置
光学カメラ

(D)高速画像取得によって抽出された運動課題中のマウスの1) ヒゲと回転棒の接触時(灰色の影内)、2) ヒゲの角度の変化量、ヒゲの曲率の変化量に対する一次体性感覚野と二次体性感覚野の各ニューロン活動を同時計測した例

下記図、上から
刺激への決定(反応)/ ニューロン活動 / ヒゲの動き
Hit(正再認):見本刺激と比較刺激の不一致を正しく判断(飲水OK)
CR(correct rejection = 正棄却):見本刺激と比較刺激の不一致に対し、一致する、と間違って判断


Ref: %ΔF/F:Ca2+蛍光強度変化率
Δk:ヒゲの角度の変化量
Δk:ヒゲの曲率の変化量
波数:0.2 mm-1
2秒間隔

Ref.
「Go/No go課題」

刺激検出課題の成績を評価するための指標(信号検出理論)
見本刺激と比較刺激の「不一致」に対して
「不一致」と反応
見本刺激と比較刺激の「不一致」に対して
「一致」と反応
実際に信号(刺激情報)あり ヒット/正再認(正しく反応) ミス(信号を見落として検出失敗、反応がない)
実際は信号(刺激情報)なし 誤警報(誤って反応) 正棄却(反応がない)

Ref:Go課題ではできる限り早く反応を、No-go課題では反応を抑止するように教示される。No-go課題ではどの程度エラーを産出したかが指標となる。
Ref:正反応には実際に存在する情報(信号)を正しくあったと答える正再認(hit)と,存在しない情報(信号)を正しく無かったと答える(反応しない)正棄却(correct rejection)がある。
Ref:誤警報には実際には存在しない情報(信号)を見出してしまう誤警報/誤検出(false alarm)と,存在する情報(信号)を見落としてしまう(反応しない)検出失敗(miss)がある。

成体マウスの文脈依存的な感覚処理を研究するために、頭部を固定したマウスを用いて、ヒゲの動きを観察するために過去の刺激と現在の刺激を比較する「遅延非見本合わせ(DNMS)」課題を行った(図1A参照)。この課題では、回転棒に成体マウスのヒゲを接触させることで、ヒゲの触覚と飲水行動とを連合させ、刺激に対するヒゲの動く方向(前から後ろ、後ろから前、前だけ、後ろだけ)を弁別させる行動課題を行わせた(Ref:げっ歯類がヒゲを前後にリズミックに動かしながら対象物を探索することを「whisking」という)。最初に1.2秒間の「見本」刺激を提示し、2秒間の遅延期間の後、見本刺激とは異なる1.2秒の「検査」刺激を提示した。遅延期間および試行間間隔(比較刺激が提示される前)では、ヒゲと回転棒が接触しないように回転棒を引き抜いた。ここで用いられた課題は「Go/No go課題」といい、提示された見本刺激と比較刺激が一致しなかった場合、マウスは舌を出してノズルを舐めると水を与えられるが(hit/正再認,「Go課題」)、提示された見本刺激と比較刺激が一致した場合、水は与えられず、ノズルを舐めてはいけない(correct rejection = 正棄却,「No-Go課題」)。そのまま課題は続行されるが、Go試行時に間違えた場合(miss)は報酬を与えず、No-Go試行時に誤警報(false alarm)を示した場合は罰としてマウスに空気を吹き付けて報酬は与えずに中断した。どの個体も訓練を繰り返すと、この課題を高い実行成績(performance)(d’= 2.79±0.12)(図1B参照)で実行できるようになった。課題試行数は1セットあたり300回以下とした。

「遅延非見本合わせ(DNMS)」課題中の一次体性感覚野と二次体性感覚野の内部およびその全体における神経系のダイナミクスを調べるために、遺伝子コード型赤色蛍光Ca2+センサ「R-CaMP1.07」(大倉ら著、2012年)を用いて、最近開発された多領域2光子顕微鏡(Chenら著、2016年)で2つの領域における異なる細胞集団のCa+活動を同時計測した(図1Cおよび図1D参照)。この計測では、前述したように(Chenら著、2016年)、非染色、未決定(Not-Determined)のニューロン(S1NDおよびS2ND)からS1S2(情報のフィードフォワード制御)のニューロンとS2S1(情報のフィードバック制御)のニューロンをさらに同定するため(Ref:フィードバック制御:計画した運動と実際の運動のずれの情報を使って制御 / フィードフォワード制御:計画した運動が実行されるように、過去の経験を使って予測的に制御)、部位特異的組換え酵素であるCreおよびFLPに依存した蛍光タンパク質のレポーター遺伝子を発現させるウイルス媒介逆行性トレーサー(Tervoら著、2016年)を用いた。そして、二次体性感覚野において、核局在化シグナル(NLS)を付加した遠赤色蛍光タンパク質mCardinalを発現させたり、または ヒストン(H2B)修飾した青色蛍光タンパク質mTagBFP2を発現させることによって、S1およびS2S1のニューロンにGFP(緑色蛍光タンパク質)を発現させS1S2ニューロンを同定することができた。活動の様子を観察するためにイメージングを行ったニューロンの数は、6,603個(3,661個のS1NDのニューロン、156個のS1S2のニューロン、2,645個のS2NDのニューロン、141個のS2S1のニューロン)に上った。この実験では、6頭のマウスを用いて1匹当たり8回から14回の解析を行った。さらに、高速撮影カメラを用いて、マウスのヒゲと回転棒が接触している間および回転棒が回転している間に、マウスのヒゲの動きのモニタリングを行った。

課題に関連したマウスのヒゲ運動特性

図2:課題遂行中の受動的刺激に対するマウスのヒゲの動き
(A)見本刺激提示期にマウスのヒゲが前方向に動いた様子をトレースした例。


(B)見本刺激提示期にマウスのヒゲが後ろ方向に動いた様子をトレースした例。


(C)1度の試行で、上記(A)および(B)のときのヒゲの動きの角度と曲率の変化量を算出した様子
Δk:ヒゲの角度の変化量
Δk:ヒゲの曲率の変化量
波数:0.2 mm-1
2秒間隔


(D)課題遂行中(左図)および受動的条件(右図)において、試行毎のヒゲの動きを確認し、計測されたヒゲの「角度」の変化量の試行平均
(E)課題遂行中(左図)および受動的条件(右図)において、試行毎のヒゲの動きを確認し、計測されたヒゲの「曲率」の変化量の試行平均
スケールバーは1 mmを示す。
エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。
N =(各ニューロンのサンプリング画素数):53
図S1も参照のこと。


ヒゲの動き:前 → 後
      後 → 前
      前 → 前
      後 → 後
2秒間隔

最初に、課題となる刺激がどのようにマウスのヒゲ運動を駆動するのかを特性評価するため、マウスのヒゲと回転棒の触覚刺激時間と回転軸が回転している間のマウスのヒゲ角度と(げっ歯類は1本のヒゲがどの角度で接触したか、どのタイミングで接触したかによって対象物の位置を同定する)や曲率の「平均値」(統計学で平均値の意味)の変化を解析した(Clackら著、2012年)(図2A~図2C参照)。見本刺激または比較刺激を提示する前に、まずマウスのヒゲと回転軸とを接触させると、後ろ方向にヒゲが動き、曲率が変化した。見本刺激と比較刺激を提示している間は、ヒゲは前方向または後ろ方向に動いた。この前後2方向のヒゲの動きに伴い生じたヒゲの曲率の変化量をΔkとする(図2Dおよび図2E参照)。引き込み式の回転軸でヒゲを引っ張るにつれて、ヒゲが前方向に回転した後に回転軸を引き抜くと、時折さらに前方向に動き、その曲率の変化量は大きくなった(図S1参照)。回転軸がひげと接触しなくなると、ヒゲ運動は刺激前の状態に戻り、見本刺激の同一性は遅延期間の後期までにヒゲの運動特性によって維持されないことが示唆された(角度:p 値= 0.25、Δk:p値 = 0.06、「対応のあるt検定」による)。ヒゲ運動は課題遂行中の刺激が提示された場合の条件と受動的刺激を提示された場合の条件で同程度であり、他の課題で観察されるような能動的にヒゲを動かしての積極的な刺激への応答(Chenら著、2015年; O’Connorら著、2010年)はこの特有の課題においては顕著には見られなかったことを示唆している。

Ref: P値は有意性の判定基準として用いられる確率、蓋然性(Probability)。一般的に、0.05 (= 5 %)を有意水準として、P値が0.05以下のときに仮説が有意であるとされる。つまり対象となる事象が起こりえる確率が95 %以上であるということを示している。

課題に関連した刺激情報に対する「特異的な」(heterogeneous)表象

図3:重回帰分析で導出した単一ニューロンにおける課題遂行中の変動性

(A)刺激選択性をもつニューロンの1例。
上図: 刺激条件によって分類された各試行における活動電位を「推測統計的」に表示したもの
中央図:各刺激条件における発火率の平均値
下図: 課題試行時の変動性をデコード(解読)したもの


(B)文脈依存性的な応答を示すニューロンの1例。
上図: 刺激条件によって分類された各試行における活動電位を「推測統計的」に表示したもの
中央図:各刺激条件における発火率の平均値
下図: 課題試行時の変動性をデコード(解読)したもの


提示された課題の種類:見本刺激/比較刺激
β:活性化関数
Model: 神経系の理論モデル
NM:見本刺激と比較刺激が「不一致」
M:見本刺激と比較刺激が「一致」


(C)βsample(見本刺激提示期)vs βtest(比較刺激提示期)の分布図
見本刺激提示期と比較刺激提示期の両方で、ニューロンが「刺激選考性」を維持しているのが分かる。赤い点線は、ばらばらに与えられた情報を処理した際のニューロン活動が、統計的に有意な現象であるかどうかを検証するために示したもの(=有意水準を設けたもの)。


(D)βsample(見本刺激提示期)vs βsample(遅延期間の後期)の分布図
見本刺激提示期の情報が、遅延期間の後期にも存在しているのが分かる。赤い点線は、ばらばらに与えられた情報を処理した際のニューロン活動が、統計的に有意な現象であるかどうかを検証するために示したもの(=有意水準を設けたもの)。赤い点線は、ばらばらに与えられた情報を処理した際のニューロン活動が、統計的に有意な現象であるかどうかを検証するために示したもの(=有意水準を設けたもの)。


(E)βsample(遅延期間の後期)vs βtest(比較刺激提示期)vs βcategory(カテゴリ判断による刺激提示期/再認)の分布図
見本刺激、比較刺激、試行に対するカテゴリ判断に対する各情報が、「個々」のニューロンにわたって「特異的」に分散されていることが分かる。
N =(各ニューロンのサンプリング画素数):6,603個
(図S2および図S4も参照のこと)

マウスのヒゲの一次体性感覚野と二次体性感覚野は、刺激および「選択に関わるニューロン活動」を符号化することが観察されているが(Chenら著、2016年; Kwonら著、2016年; 山下およびPetersen著、2016年; Yangら著、2016年)、さらに複雑で「文脈依存的」な情報が、どの程度存在するのかに関してはあまり調査されていない。課題に関連した応答の多様性を評価するため、試行の間に、我々は、逆畳み込み処理したカルシウム信号を3つの独立変数に当てはめ、ニューロンの発火率を次の3つの組み合わせとして説明できるようにした。1つ目は見本刺激(βsample)、2つ目は比較刺激(βtest)、3つ目は試行に対するカテゴリ判断(見本刺激と比較刺激の組み合わせ(「不一致」vs「一致」)または動物による選択(hit(正再認) vs correct rejection(正棄却))(図3A、図3B、図S2A-図S2D参照)に「特異的」なニューロン活動によって推測される)である。見本刺激提示期の(βsample[sample])の見本刺激の情報と比較刺激提示期の比較刺激の情報を符号化するニューロンによって示されるように、方向調整された「個々」のニューロンが一次体性感覚野と二次体性感覚野の両方の領域で顕著に観察できた。方向性の調整は、見本刺激提示期と比較刺激提示期の間に、「個々」のニューロンにおいて「維持」された(図3C参照)R = 0.92、p値 < 1 x 10-300 = 0.00000………1、きわめて有意性が高い)。見本刺激に対する神経活動は、遅延期間中は維持されなかったが(図S2E、図S2F、図S6参照)、見本刺激を提示した時の神経活動は、比較刺激提示期に延長された遅延期間の後期(βsample [late delay])にいくつかのニューロンにおいて再出現した(図3D参照)(R = 0.43、p値 < 1 x10-292 = 0.00000………1、きわめて有意性が高い)。見本刺激および比較刺激からの情報に加えて、検査期間中(βcategory [test])に、試行に対するカテゴリ判断に関連する情報も存在した。見本刺激、比較刺激、試行に対するカテゴリ判断に対するそれぞれのニューロン応答の分布を解析すると、個々のニューロンによってニューロンが符号化する情報の程度と種類の両方が大きく異なることが観察できる(図3Eおよび図S2D参照)。これらの結果から、一次体性感覚野と二次体性感覚野が、後のカテゴリ判断につながるような入力刺激に対する過去の刺激や文脈依存性context-dependent modulation)に関する情報などの複雑な感覚応答を符号化することができるということが分かる。

遅延期間の後期における手がかり再生課題のニューロン応答

図4:見本刺激提示期の情報が、「想起(再生)」を介して遅延期間の後期でも出現していることを示した各種データ。


(A)遅延期間後期に観察された各ニューロンの平均発火率
ヒゲと回転軸との再接触時に、手がかり再生を与えられた各ニューロン(すなわち、統計的に有意な|βsample(遅延期間の後期)|の各ニューロン)とコントール群(=「対照群」:結果を検証するために比較対象として設定された評価項目、ここでは「手がかり再生」による情報なしの意味)としてのニューロンの比較

(B)遅延期間後期に観察された見本刺激提示期の情報
ヒゲと回転軸との再接触時に、手がかり再生を与えられた各ニューロンと「対照群」(ここでは「手がかり再生」による情報なしの意味)としてのニューロンの比較

Estimated firing rate:発火率を「推測統計的」に表示したもの


(C)見本刺激提示期の情報に関して、遅延期間後期に観察されたヒゲの動いた角度と各ニューロンの応答を示した図。
→ 相互相関解析によって、1) ヒゲが回転軸と再接触した際のヒゲの動いた角度と2) 手がかり刺激に対する各ニューロンの応答を比較したもの

(D)見本刺激提示期の情報に関して、遅延期間後期に観察されたヒゲの曲率変化と各ニューロンの応答を示した図。
→ Rによる相互相関解析によって、1) ヒゲが回転軸と再接触した際のヒゲの曲率変化と2) 手がかり刺激に対する各ニューロンの応答を比較したもの

R:関数の返す値(返り値:Return)


(E)ヒゲが回転軸と再接触した際のヒゲの動いた角度に関して、手がかり再生を伴ったニューロン群の応答強度と「対照群」(ここでは「手がかり再生」による情報なしの意味)としてのニューロン群の応答強度の相関性を、累積分布関数で示したもの

(F)ヒゲが回転軸と再接触した際のヒゲ曲率変化に関して、統計的に有意な手がかり再生を伴ったニューロン群の応答強度と「対照群」(ここでは「手がかり再生」による情報なしの意味)としてのニューロン群の応答強度の相関性を、累積分布関数で示したもの
N =(各ニューロンのサンプリング画素数):5,574個
(図S3も参照のこと)

R:関数の返す値(返り値:Return)

一次体性感覚野と二次体性感覚野において、「遅延期間での持続的なニューロン活動」が観察されなかったことを考慮すると、遅延期間の後期で見本刺激の情報が再出現したことは驚くべきことであった。ニューロンへ伝達されるそのような情報は、比較刺激を提示する前に再度ヒゲに対して回転軸と接触させると手がかりとして機能する「手がかり再生」と考えられる。我々は触覚刺激前後のヒストグラムを作成し、ニューロンの発火率と見本刺激に対する情報を求めた(図4Aおよび図4B参照)。手がかり再生を与えられたニューロンには、遅延期間の後期に見本刺激| βsample |が重要な手がかりとして入力されると定義された。これらのニューロンは、発火率が増加し、触覚刺激の開始から得られた見本刺激の情報に合わせて応答したが、これはこの情報がヒゲと回転軸の接触から続いたものであることを示している。

手がかり再生に対する神経活動が、マウスのヒゲの回転軸への再接触時に存在する感覚運動の手がかりを反映するのかどうかを調べるために、遅延期間の後期のヒゲの運動を調べた(図S3参照)。この期間中に、マウスのヒゲの曲率変化における違い(| Δk |)は全く観察されなかった(p値 = 0.46、「対応のあるt検定」による)。見本刺激に応じて、ヒゲの動いた角度は回転軸と再接触したときに平均1.1度異なった(p値 < 1 x 10-6、「対応のあるt検定」による)。しかし、このヒゲの角度の大きさは、行動学的に明らかにされている知覚的な識別の閾値を下回った(Cheungら著、2019年)。これらのヒゲの機能に「選択性」をもたせることで手がかり再生に対する神経活動を説明できるのかどうかを検査するため、個々のニューロンにおける接触時のヒゲの動きの角度 及び 曲率変化の選択性と手がかり再生からの応答の強度を比較した。接触時のヒゲの動きの角度の選択性と手がかり刺激に対するニューロン応答との間には負の相関があったが、曲率変化と手がかり再生からの応答との間には相関は見られなかった(角度:R = 0.04、p値 <0.002(きわめて有意性が高い); | Δk |:R = 0.004、p値 = 0.77)(図4Cおよび図4D参照)。手がかり再生を行ったニューロンは、他のニューロンよりも不確実性を伴うヒゲ角度を符号化したが、曲率の変化に関する違いは見られなかった(図4Eおよび図4F参照)(角度:p値 <0.02(有意性が高い)および| Δk |:p値 = 0.78、「K-S検定」による)。全体として、これらの調査結果は、手がかり再生に対するニューロン応答は感覚運動の機能だけでは十分に説明できないことを示しており、作業記憶から見本刺激に対する情報の再生を反映する可能性が高いことを示唆している。

比較刺激提示期における「文脈依存的」なニューロン応答

図5:一致刺激と不一致刺激に対するニューロン応答が、「文脈的に依存している」ことを示した各種データ。

(A)「一致」試行と「不一致」試行において、βsample(想起を介した見本刺激)、βtest(入力された比較刺激)、βcategory(文脈効果を伴うカテゴリ判断)の各刺激が提示された時の「選好性」に対する個々のニューロンの平均発火率の符号化を解析したもの


一致試行 / 不一致試行(タイプ1)/ 不一致試行(タイプ2)
Pre:高選好性 / Non:低選好性
β:活性化関数

(B)「一致」と「不一致」の各試行条件時の「選好性」に対する個々のニューロンの発火率を「推測統計的」に表示したもの


Est. firing rate(Hz):選好刺激に対する「推測統計的」な発火率

(C)見本刺激提示期と比較刺激提示期において、刺激の運動方向が「選好方向」の場合(左図)と「非選好方向」の場合(右図)の「推測統計的」な発火率の変調を解析したもの

Preferred trials:刺激の運動方向が「選好方向」(報酬を予測した行動)を示した各試行(ニューロン応答が、嗜好性の高い報酬を予測した各試行)
Non-preferred trials:刺激の運動方向が「非選好方向」(回避行動)を示した各試行(ニューロン応答が、嗜好性の低い報酬を予測した各試行)

Non-match enhancement:不一致試行における信号の増強
Non-match suppression:不一致試行における信号の抑圧
Match enhancement: 一致試行における信号の増強
Match suppression: 一致試行における信号の抑圧

Context-modulated:文脈依存したニューロン応答
Match:「一致している」と判断
Type I non-match:「不一致である」と判断(タイプ1)
Type II non-match:「不一致である」と判断(タイプ2)

Area:検査対象の領域(一次体性感覚野/二次体性感覚野)

エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。

各N(各ニューロンのサンプリング画素数)の値
・一次体性感覚野において、「一致する」と応答したニューロン数:174
・二次体性感覚野において、「一致する」と応答したニューロン数:155
・一次体性感覚野において、「一致しない(タイプ1)」と応答したニューロン数:89
・二次体性感覚野において、「一致しない(タイプ1)」と応答したニューロン数:65
・一次体性感覚野において、「一致しない(タイプ2)」と応答したニューロン数:220
・二次体性感覚野において、「一致しない(タイプ2)」と応答したニューロン数:148

*:P値 <0.05 / **:P値 <0.02(有意性が高い)
図S4も参照のこと

想起された見本刺激と入力された比較刺激がどのように組み合わされて、カテゴリ判断に対するニューロン応答を生成するのかを理解するために、見本刺激と比較刺激の一致条件と不一致条件のいづれかに対して、「文脈依存的」な応答を示すニューロンの特性評価をした。文脈依存的な修飾作用を受ける個々のニューロンについて、我々は、見本刺激提示期における刺激の移動方向(前後)に対するニューロンの優先的選択性を決定し、その優先的選択性に関する各試行条件を解析した(図5A参照)。比較刺激提示期における「選好刺激」(preferred stimulus)に対して、発火率がどのように変調するのかを評価した(図5Bおよび図S4参照)。一致試行に対するニューロン応答では、見本刺激と比較刺激が一致したときに「興奮性ニューロン」(活動電位の発生を促進したニューロン応答)が見られた(Match enhancement:一致試行における信号の増強)。ここでは、一致試行における選好刺激のニューロン応答が、見本刺激提示期の選好刺激の応答に対して増強した(図5C参照)。不一致試行では、見本刺激と比較刺激が一致したときに「抑圧性ニューロン」(活動電位の発生を抑圧したニューロン応答)が見られた(Non-match suppression:不一致試行における信号の抑圧)。このとき、比較刺激提示期における選好刺激に対する「推測統計的」な発火率は、見本刺激提示期における選好刺激の応答を考えると、予期されていたよりも低かった。提示された見本刺激と比較刺激が一致したときに我々が同定したニューロンの種類は1種類であったが、不一致のときのニューロンは2種類、観察することができた。タイプ1の「一致しない」と応答したニューロンは、遅延期間の後期において手がかり再生に対する応答を示したが、その一方、タイプ2の「一致しない」と応答したニューロンは、手がかり再生に対する応答を示さなかった。タイプ2の「一致しない」と応答したニューロンは、比較刺激提示期に不一致であると伝達する信号を増強させるとともに、一致すると伝達する信号を抑制させた。タイプ1の「一致しない」と応答したニューロンは、タイプ2の「一致しない」と応答したニューロンとは異なり、ニューロンの選好刺激に対する発火率の変調はほとんど観察されなかった。その代わりに、これらのニューロンは、見本刺激提示期に対して選好性または非選好性をもっていたかどうかに関係なく、不一致であるという信号によるニューロン応答を示した。

全体として、一次体性感覚野(S1)のニューロンと比較すると、二次(S2)体性感覚野のニューロンの方がより強い変調を示した。二次体性感覚野(S2)における見本刺激と比較刺激が一致したときのニューロンは、一次体性感覚野(S1)のニューロンよりも一致の増強がより大きかった(p値 <0.02(有意性が高い)、「独立標本t検定」による)。一次体性感覚野(S1)のニューロンと比較すると、タイプ2の「一致しない」と応答した二次体性感覚野(S2)のニューロンは、不一致であると伝達する信号をより大きく増強させたが、一致していると伝達する信号の抑制はより減弱した(不一致であると伝達する信号の増強:p値 <0.05、不一致であると伝達する信号の抑制:p値 <0.05、「独立標本t検定」による)。これらの結果から、ニューロンには見本刺激と比較刺激に対する一致と不一致を伝達する信号が、様々な種類で存在することがわかり、複数の異なるメカニズムが「文脈依存的修飾」によるニューロン応答の生成に関係しているかもしれないことを示している。

情報処理の「局所的」かつ「分散的」な形態

図6:一次体性感覚野と二次体性感覚野における課題別の情報への応答の違いを明確化するための要件


(A)種類別神経細胞の解剖学的解析を通して、先行刺激、手がかり再生、カテゴリ判断による情報を符号化するニューロンを分画(fraction)したもの
(B)行動学的解析における課題成績(performance)に対して、一次体性感覚野 または 二次体性感覚野の各領域を光遺伝学的に不活性化させたことにより生じた効果

(A)のエラーバーはブートストラップ法(推定値の信頼性評価)による標準偏差(SD)を示す。
N =(各ニューロンのサンプリング画素数):6,603個
(B)のエラーバーは標準誤差(SEM)を示す。
N =(各ニューロンのサンプリング画素数):6頭のマウスを用いた。

*:P値 <0.05 / **:P値 <0.02(有意性が高い)/ ***:P値 <0.002(きわめて有意性が高い)


検定結果の表示にあたって、複数の有意水準を用いて有意性に段階を付けることがあり、0.05水準,0.01水準,0.001水準で有意ならば,それぞれ検定結果に「*」「**」「***」などとマークする。

図S5も参照のこと

先行刺激、手がかり再生、カテゴリ判断による情報は、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)で「特異的」なものとして表されるが、そのような情報は1つの領域で局所的に発生する処理を反映するか、または全領域で分散される処理を反映するかのどちらかの可能性がある。このことを解決するため、我々は、領域特有の機能的摂動と課題特有の機能的摂動とともに、領域間におけるそのような情報の流れを追跡した。情報の流れを追跡するのに、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)間で同定された投射ニューロンの応答を、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)の各領域で標識されていないニューロンと比較した(図6Aおよび図S5A参照)。文脈依存的な感覚処理を行っているときの各領域の役割をさらに調査するため、課題を実行するVGAT-ChR2-EYFPマウスの抑圧性ニューロンに光活性化タンパク質の1つであるチャネルロドプシン2(channelrhodopsin 2 : ChR2)を発現させ、励起光を照射することで、各領域を光遺伝学的に不活性化させた(Zhaoら著、2011年)(n = 6)。各領域は、試行中における(1)見本刺激提示期、(2)遅延期間の初期、(3)遅延期間の後期、(4)比較刺激提示期 の4つの異なる期間で「サイレント」になった(図6B参照)。刺激の移動方向はすでに視床の後内側腹側核(VPM)に存在し、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)の両方は、この後内側腹側核(VPM)から入力を受けるが(BaleおよびPetersen著、2009年; 鳴海ら著、2007年)、これらの領域、つまり一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)がこの入力情報を並行して処理していることを示唆している。実際に、見本刺激提示期における一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)のどちらかが不活性であっても、課題の実行成績(performance)に影響を与えることはなかった。S1NDおよびS2NDニューロンと比べて、刺激の移動方向を符号化する割合はS1S2およびS2S1ニューロンの方が大きかった(S1S2 vs S1ND:p値 <0.05、S2S1 vs S2ND:p値 <0.02(有意性が高い);「カイ二乗検定」による)。感覚情報の流れが双方向のため、一方の領域が不活性化していても他の領域で補償することができる。対照的に、遅延期間の後期において一次体性感覚野(S1)が不活性でなくても二次体性感覚野(S2)が不活性であった場合、課題の実行成績(performance)に影響を与えた(遅延期間後期の不活性化 vs 遅延期間後期の活性化:p値 <0.05、「対応のあるt検定」による)。このことは、二次体性感覚野(S2)が手がかり再生に対するニューロン応答を処理するのに重要であることを示唆している。遅延期間の後期に手がかり再生に対するニューロン応答を含む割合が、S2NDニューロンと比べて、S2S1ニューロンの方が大きかったことを考慮すると、二次体性感覚野(S2)における手がかり再生に対するニューロン応答は、一次体性感覚野(S1)に伝達されるように見えた(p値 < 1 x 10-6、「カイ二乗検定」による)。比較刺激提示期において二次体性感覚野(S2)が不活性でなくても一次体性感覚野(S1)が不活性であった場合、課題の実行成績(performance)に影響を与えた(比較刺激提示期の不活性化 vs 比較刺激提示期の活性化:p値 <0.002(きわめて有意性が高い)、「対応のあるt検定」による)。カテゴリ判断による情報は一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)の両方の領域で見つかったが、S1NDニューロンと比べて、S1S2ニューロンは重要視されていなかった(p値 <0.05、「カイ二乗検定」による)。このことは、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)のカテゴリ判断に対する「局所的な」ニューロン応答をそれぞれの領域で数学的に表現(computed)することができるが、二次体性感覚野(S2)を経由しないで伝達された課題を正しく実行するには、一次体性感覚野(S1)におけるニューロン応答だけが重要であることを示唆している。V1(一次視覚野)が不活性化されても行動障害は生じず、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)で観察された機能的な効果がこれらの領域に特異的であったことが分かる(S5B参照)。全体として、これらの結果にもあるように、局所的でありながら分散的に情報処理を行うことで、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)全体の応答特性に「特異性」がみられることを説明できる。

行動予測が可能な状態(報酬獲得の有無に対する予測)によって、手がかり再生とカテゴリ判断に対するそれぞれのニューロン応答の振幅が増減する。

Ref:モジュレーションがおきる=ニューロンの発火率が時間とともに増加・減少すること

図7:手がかり再生とカテゴリ判断に対するそれぞれのニューロン応答に関して、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)における課題間の発火率に「有意な差」が見られることを示したデータ


Correct:正反応
Error:誤反応
Model performance:マウスの課題成績
% trials:試行ブロック毎の正反応率/誤反応率

(A)「交差検証」を用いて、比較刺激提示期における先行刺激、手がかり再生、カテゴリ判断のそれぞれの情報に対する動物の選択行動に基づいたニューロン集団の符号化を解析したもの。正反応試行(hitおよびcorrect rejection)から、各マウス(classifier:分類対象)の実験時の課題成績をモデル化した。棒グラフについては、正反応試行における各刺激の課題成績は色付きの棒グラフで示し、誤反応試行における各刺激の課題成績は白色の棒グラフで示した。実験課題は、一次体性感覚野と二次体性感覚野に対して別々に行った。

(左図)Miss(不一致の検出失敗)の誤反応した試行における刺激別の課題成績
(右図)False alarm(信号が送られていないのに、不一致であると誤警報)の誤反応した試行における刺激別の課題成績

(B-D)
情報を符号化するニューロンに関して、課題遂行時の比較刺激提示期における手がかり再生およびカテゴリ判断からのそれぞれの情報と、下記のBからDの受動的条件下の刺激情報とで比較した。

(B)一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)における手がかり再生による刺激情報を符号化するニューロン


(C)一致条件下の刺激情報を符号化するニューロン


(D)不一致条件下の刺激情報を符号化するニューロン


(B)から(D)について
(左図および中央図)
提示される刺激が1) 能動的、2) 受動的、3) ばらばら(ごちゃ混ぜ)の各条件下における比較刺激提示期のニューロン活動の平均的な時間経過(time course)を測定したもの
(右図)
比較刺激提示期の平均値
(統計学では、平均値の意味としてmeanを用いる。Meanは相加平均、averageは中央値や最頻値なども含めた広義の平均を意味する)

エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。
(A):N = 57(イメージングしたニューロン集団数)
(B):N = 583(イメージングした一次体性感覚野のニューロン数)
    N = 473(イメージングした二次体性感覚野のニューロン数)
(C):N = 95(イメージングした一次体性感覚野のニューロン数)
    N = 102(イメージングした二次体性感覚野のニューロン数)
(D):N = 454(イメージングした一次体性感覚野のニューロン数)
    N = 421(イメージングした二次体性感覚野のニューロン数)

*:P値 <0.05 / **:P値 <0.02(有意性が高い)/ ***:P値 < 1 x 10-3(= 0.001、きわめて有意性が高い)
図S6も参照のこと

一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)間の課題に関連する活動の違いをさらに明らかにするために、まずは動物の選択に関連して、各領域に伝達された情報が課題の実行成績(performance)にどのように関係するのかを調べた。誤試行率が比較的少なかったと考えて(誤試行率15%未満)、我々は正反応試行(hitおよびcorrect rejection)で、先行刺激(新しい情報)、手がかり再生、カテゴリ判断に対する集団レベルのニューロン応答をそれぞれモデル化するために「線形判別分析」を用いた。さらに、誤反応試行(missまたはfalse alarm)でのマウスの課題に対する実行成績(performance)を調べた(図7AおよびS6参照)。先行刺激の場合は、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)のどちらかの領域で情報を符号化する際に、正しい課題成績(performance)による目立った変化をすることはなかった。しかし、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)の両方の領域で、手がかり再生に対する情報を符号化すると、missの誤反応試行では「減弱」が見られたが、false alarmの誤警報試行の間はその符号化に差は見られなかった。(一次体性感覚野(S1):βsample提示時の課題成績(performance):正反応、69.9%±1.4%;誤反応、51.5%±3.3%; p値 < 1 x 10-4、「対応のあるt検定」;βcategory提示時の課題成績(performance):正反応、73.2±1.6%;誤反応、56.0%±2.0%; p値 < 1 x 10-9、「対応のあるt検定」; 二次体性感覚野(S2):βsample提示時の課題成績(performance):正反応、68.4%±1.7%;誤反応、50.4 %±3.1%、p値 < 1 x 10-5、「対応のあるt検定」、βcategory提示時の課題成績(performance):正反応、74.7%±1.5%、誤反応、65.5%±1.9%、p値 < 1 x 10-9、「対応のあるt検定」)。

missの誤反応試行におけるマウスの課題成績(performance)の低下は、誤った選択を反映しているのではなく、解放の期間を反映している可能性がある。このことを解決するために、我々は、手がかり再生からの情報とカテゴリ判断からの情報が受動的な条件における比較刺激提示期に存在するのかどうかを検査した。全体として、手がかり再生による情報は、課題実行中よりも少なかったが、チャンスレベル(偶然正答率/判別性能)を上回ったままだった(図7B参照)(一次体性感覚野(S1):課題に対する応答 vs 受動的な(無意識の)刺激への応答、p値 < 1 x 10-9;受動的な刺激への応答 vs ばらばらの刺激情報への応答(「再認」テスト)、p値 < 1 x 10-5;二次体性感覚野(S2):課題に対する応答 vs 受動的な(無意識の)刺激への応答、p値 = 0.0973;受動的な刺激への応答 vs ばらばらの刺激情報への応答(「再認」テスト)、p値 < 1 x 10-6;、「対応のあるt検定」)。しかし、一次体性感覚野(S1)よりも、二次体性感覚野(S2)に送られる情報は少なかった。つまり、探索行動中の手がかり再生に対するニューロン応答は、一次体性感覚野(S1)よりも二次体性感覚野(S2)の方がその活動の持続性が高かったことを示唆している(p値 < 0.002(きわめて有意性が高い)、「独立標本t検定」による)。ここで、カテゴリ判断に対するニューロン応答に対し、見本刺激と比較刺激の「一致条件」(+βcategory)と「不一致条件」(-βcategoryを設定した。受動的な条件で与えられる刺激に関しては、一致条件と不一致条件に対するニューロン応答は両方とも、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)において大きく減弱した(一次体性感覚野(S1):課題に対する応答 vs 受動的な(無意識の)刺激への応答、p値 < 1 x 10-9;受動的な刺激への応答 vs ばらばらの刺激情報への応答(再認)、P値 < 1 x 10-3(= 0.001、きわめて有意性が高い);二次体性感覚野(S2):課題に対する応答 vs 受動的な(無意識の)刺激への応答、p値 < 1 x 10-9;受動的な刺激への応答 vs ばらばらの刺激情報への応答(再認)、p値 < 1 x 10-5;、「対応のあるt検定」)(図7Cおよび図7D参照)。しかし、一次体性感覚野(S1)よりも、二次体性感覚野(S2)における不一致条件に対するニューロン応答は減弱した(p値 < 0.05、「独立標本t検定」による)。二次体性感覚野(S2)の不一致条件に対する応答は、チャンスレベル(偶然正答率/判別性能)を上回ったままだったが、一次体性感覚野(S1)の不一致条件に対する応答は、チャンスレベル(偶然正答率/判別性能)を上回らなかった(一次体性感覚野(S1):課題に対する応答 vs 受動的な(無意識の)刺激への応答、p値 < 1 x 10-9;受動的な刺激への応答 vs ばらばらの刺激情報への応答(再認)、p値 = 0.08;二次体性感覚野(S2):課題に対する応答 vs 受動的な(無意識の)刺激への応答、p値 < 1 x 10-9;受動的な刺激への応答 vs ばらばらの刺激情報への応答(再認)、p値 < 0.05、「対応のあるt検定」)。全体として、これらの結果から、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)における手がかり再生に対するニューロン応答とカテゴリ判断に対するニューロン応答は、行動的に調整することができる(報酬獲得有無の予測により表れる行動状態で神経活動が増減する)ことが分かる。しかし、課題を実行するのが動物ではなくヒトの場合は、手がかり再生やカテゴリ判断による情報は二次体性感覚野(S2)においてより確実に存在している。

一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)のネットワーク特性は異なる

図8:一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)のネットワーク特性の違い


Correlated variability (R2乗)ノイズ相関の変動性
R2乗値(R-squared):決定係数
(変動のうち回帰式によって説明できる割合を表し、寄与率とも呼ばれる。)

(A)多領域2光子イメージングにより、一次体性感覚野内(S1:S1、左側の棒グラフ)、二次体性感覚野内(S2:S2、真ん中の棒グラフ)、一次体性感覚野と二次体性感覚野の間(S1:S2、右側の棒グラフ)における比較刺激提示期のニューロン活動を「同時に」観察したときのデータ。この手法により、各ニューロンペアが、それぞれの領域で同様の応答特性を示していることが分かる。図は、ノイズ相関の変動性を平均値で分析したもの。

(B)多領域2光子イメージングにより、一次体性感覚野内(S1:S1、左側の棒グラフ)、二次体性感覚野内(S2:S2、真ん中の棒グラフ)、一次体性感覚野と二次体性感覚野の間(S1:S2、右側の棒グラフ)における見本刺激提示期のニューロン活動を「同時に」観察したときのデータ。この手法により、各ニューロンペアが、それぞれの領域で同様の応答特性を示していることが分かる。図は、ノイズ相関の変動性を平均値で分析したもの。


縦軸:Relative trials(各試行毎の相対的弁別指数)
横軸:ニューロンの発火率の変数

(C)多領域2光子イメージングにより、「同時計測」された一次体性感覚野と二次体性感覚野の各領域における手がかり再生からの情報に対する各ニューロン応答の割合を、「線形判別分析」を用いて、関数としてグラフ化したもの

(D)多領域2光子イメージングにより、「同時計測」された一次体性感覚野と二次体性感覚野の各領域におけるカテゴリ判断からの情報に対する各ニューロン応答の割合を、「線形判別分析」を用いて、関数としてグラフ化したもの

N = 57(イメージングしたニューロン集団数)
*:P値 <0.05
エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。

受動的な条件で与えられる刺激に関して、一次体性感覚野(S1)よりも二次体性感覚野(S2)の方が、手がかり再生に対するニューロン応答とカテゴリ判断に対するニューロン応答の文脈依存性(context modulation)およびこれらのニューロン応答の持続性がより強いということは、この2つの領域のネットワーク特性が異なっている可能性があることを示唆している。そこで、我々は、各ニューロンペア間における各試行に対して共有される変動性(これは「ノイズ相関」としても知られる)を解析した。これは、共通の入力刺激、回帰性をもつ局所的な相互作用、領域間の信号の伝達、状態依存的な調整による活性化などの神経生物学的な構造と関係している(CohenおよびKohn著、2011年)。ここで、1) 先行刺激に対する応答、2) 手がかり再生に対する応答、3) カテゴリ判断に対する応答を、一次体性感覚野内(S1:S1、左側の棒グラフ)、二次体性感覚野内(S2:S2、真ん中の棒グラフ)、一次体性感覚野と二次体性感覚野の間(S1:S2、右側の棒グラフ)におけるニューロンペアと比較した。一次体性感覚野(S1)では、比較刺激提示期の上記3つすべてのニューロン応答のタイプについて、ニューロンペア間におけるノイズ相関の変動性の差は全く見られなかった(図8A参照)。しかし、二次体性感覚野(S2)では、手がかり再生に対するニューロン応答 または カテゴリ判断に対するニューロン応答を符号化しているニューロンペアが、先行刺激に対するニューロン応答を符号化しているニューロンペアよりも、ノイズ相関の変動性がより大きかった(手がかり再生に対するニューロン応答 vs 先行刺激に対するニューロン応答:p値 < 0.05、「対応のあるt検定」)。これらの差は、見本刺激提示中の活性化を解析したときにも観察され、このノイズ相関の変動性が、試行間の二次体性感覚野(S2)におけるネットワーク特性を反映しているということを示唆している(図8B参照)(手がかり再生に対するニューロン応答 vs 先行刺激に対するニューロン応答:p値 < 0.05;カテゴリ判断に対するニューロン応答 vs 先行刺激に対するニューロン応答:p値 < 0.05、「対応のあるt検定」)。一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)間のニューロンペア間の場合は、違いは観察されなかった。このことは、二次体性感覚野(S2)における相関パターンは、全体的な(global)文脈処理機能を反映していないということを示している。この結果から、二次体性感覚野(S2)における手がかり再生に対するニューロンとカテゴリ判断に対するニューロンのノイズ相関の変動性に着目すると、神経系の機能が局所的に「細分化」(subnetworks)していることが反映されているということが分かる。

ノイズ相関の変動性は、ニューロン集団による情報の符号化に影響を与える可能性があるため(Averbeckら著、2006年)、我々は、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)のニューロンが、集団レベルで、手がかり再生に対する応答とカテゴリ判断に対する応答を符号化するのに、どのような神経活動をするのかを調べた。その方法として、「線形判別分析」を用いて、「同時計測」された各ニューロン応答の割合が変動した時の、手がかり再生およびカテゴリ判断に対するそれぞれの集団レベルでのニューロン応答を特性評価した。すると、二次体性感覚野(S2)における手がかり再生の情報とカテゴリ判断の情報に対するニューロン集団による表象の符号化効率は、一次体性感覚野(S1)においてよりも低く、応答するニューロンの数も少なかった(図8Cおよび8D参照)。つまり、二次体性感覚野(S2)の手がかり再生に対するニューロン応答とカテゴリ判断に対するニューロン応答は、機能的に類似したニューロンからの「局所的な集団間の相互作用」に依存しているということである。このような局所的相互作用に対するニューロン応答が強いと、選択行動に対しての個々のニューロンの手がかり再生およびカテゴリ判断による情報の符号化効率が高くなるのかもしれない。

考察

結論として、本研究では、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)における局所的な情報処理および領域間の相互作用によって、先行刺激、手がかり再生、カテゴリ判断に対するニューロン応答を符号化する分散的な活動パターンがどのように生成されるのかを示した。本考察で明らかになったのは、どのようにして各領域でこれらの情報に対してニューロン応答が生成されるのか、またこれらのニューロン応答が課題の実行成績(performance)にどのように関係しているのかということにおける類似点と相違点である。見本刺激提示期における一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)のどちらかが不活性化していても、課題の実行成績(performance)に影響を与えない(individually dispensable)。要するに、刺激の移動方向は視床の後内側腹側核(VPM)を経由し(BaleおよびPetersen著、2009年;鳴海ら著、2007年)、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)がこの刺激の方向を並行して処理しているということである。双方向性をもつ皮質-皮質間の刺激情報の流れによって、見本刺激提示期に、一方の領域が不活性化していても、さらなる「補償的な脳活動」が全体的に維持されている可能性がある(南沢ら著、2018年)。神経回路に特異的に摂動(特定のパターンで活性化あるいは不活性化させる)を与えたり、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)のニューロンを同時に不活性化させるなどの実験を通して、この「補償的な脳活動」の全体的な維持という考えを裏付けることができるかもしれない。

一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)において永続的な作業記憶の活動は観察されなかったが、これらの領域の手がかり再生に対するニューロン応答の仕組みを明らかにすることができた。手がかり再生に対するニューロン応答は、非ヒト霊長類の二次体性感覚野(S2)で観察されているが(Romoおよびde Lafuente著、2013年)、本研究は、一次体性感覚野(S1)での手がかり再生に対するニューロン応答に関する情報を最初に報告したものである。二次体性感覚野(S2)が手がかり再生に対する応答処理を「特異的に」(specifically)行い、一次体性感覚野(S1)にこれらの応答を伝えることは知られている。この「手がかり再生に対するニューロン応答が二次体性感覚野(S2)でどのように生じるのか」についてはまだよく分かっていないが、今後さらに研究を進めていくことで、根本的なメカニズムの解明につながる。二次体性感覚野(S2)と関係している作業記憶を符号化する各領域は、ニューロン応答のゲイン(振幅の増減)を変化させ、マウスにヒゲ刺激を行ったときには(upon whisker touch)、視覚系のニューロン応答で見られるのと同様に(Merrikhiら著、2017年)、手がかり条件に対するニューロン応答の大きさが増大すると推測できる。二次体性感覚野(S2)に特異的なネットワーク特性によって、さらに正確にこの手がかり条件による刺激を表象できる可能性があることは実証されている。このことは、手がかり再生に対する各ニューロン間において、より増大した機能的結合に反映されているが、この機能的結合によって、課題条件や受動的条件における手がかり再生による「情報の保持」がより容易に行われていると推測される。この「機能的結合」は、1) 長期にわたる「情報の統合」を実現しているより高次な「回帰性の結合」(Goldinら著、2018年; Runyanら著、2017年)、2) 連想記憶(mnemonic:ニーモニック)による情報処理に関連した各領域からの特定の長距離にわたる入力(Ährlund-Richterら著、2019年; KealyおよびCommins著、2011年)、3) 単一のシナプスのレベルで情報の維持を可能にする細胞特性における電位差(= potential differences,膜電位)(Mongilloら著、2008年)によって説明できるかもしれない。

一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)の両方の領域で、手がかり再生および入力された刺激による情報を処理できるということは、各領域が、伝達される見本刺激と比較刺激の一致および不一致を示す信号を判別する際に、「文脈依存的なニューロン応答」を局所的に生成させることができるということを示唆している。一致および不一致を判別する各ニューロン間の「抑制性相互作用」を介した局所神経回路(local circuit)のメカニズムは、そのようなニューロン応答を説明するために提唱されているが、今後さらなる研究が必要である(Engel及びWang著、2011年;Machensら著、2005年)。二次体性感覚野(S2)における一致および不一致に対するニューロン応答は一次体性感覚野(S1)のニューロン応答よりも大きいが、一次体性感覚野(S1)における一致および不一致を示す各信号は、課題の実行成績に特異的に関連しているように思われる。このことは、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)の各領域によって、見本刺激と比較刺激からの情報を処理する方法が異なることを示唆している。二次体性感覚野(S2)が一次体性感覚野(S1)に存在するカテゴリ判断の情報を出力する主要な領域ではないことを考慮すると、一次体性感覚野(S1)が、一次運動野(primary motor cortex)または線条体のようなその他の領域にこの情報を伝達する役割を果たしている可能性があることを示唆している(Chenら著、2013年;Leeら著、2019年)。この場合、比較刺激提示期において一次体性感覚野(S1)が不活性化することによる影響によって、感覚処理を意思決定や行動実行(随意運動)に直接に結びつける一次体性感覚野(S1)の神経回路がいかに重要であるかが示されるが、このことはさらに研究する必要がある。

これに対し、二次体性感覚野(S2)のカテゴリ判断に対するニューロン応答は、主に、意思決定に副次的に用いられるそのような刺激の関連付け(stimulus associations)を学習し、想起する可能性があると考えられる。このことによって、遅延期間の後期における二次体性感覚野(S2)の不活性化が行動(運動)に与える影響の説明がつくが、比較刺激提示期においてはその説明がつかない。触覚刺激検出課題(tactile detection task)中と弁別課題(discrimination task)中の一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)を調査している最近の研究では、選択に関わるニューロン間の神経活動が生成される構造として、一次体性感覚野(S1)における選択に関わる脳活動が二次体性感覚野(S2)から伝達される領野間(inter-areal)のループ回路を介した学習によることが実証されている(Chenら著、2016年;Kwonら著、2016年;NiおよびChen、2017年;Yangら著、2016年)。触覚刺激検出課題と弁別課題で言及される行動選択に伴う脳活動は、脳内の意思決定を下す信号によって駆動される行動ではなく、刺激-結果間連合(stimulus-outcome association)を反映している。上記の課題判別方法(task designs)を用いても、この2つの現象(脳内の意思決定を下す信号によって駆動される行動および刺激-結果間連合)の違いを明確に区別するのは不可能であるが、今回、我々がマウスに提示した課題によって、二次体性感覚野(S2)が過去の刺激情報を想起するのに重要であることが明らかになっている。これは、二次体性感覚野(S2)が刺激となる情報に「文脈」を与えるという一般的な情報処理機能を反映している。この刺激となる情報というのは、文脈に応じて結果として行動が変わる(文脈に応じた行動選択)のか、それとも文脈に応じて過去の感覚情報を取り入れるのかということである。一次体性感覚野(S1)と嗅周皮質(perirhinal cortex = 嗅周野 )の間の中心となる「ハブ」としての接続性を考慮すると、二次体性感覚野(S2)はそのような文脈情報の関連付け(contextual associations)を学習し、強化することに介在する(mediate)のに非常に適している。二次体性感覚野(S2)- 嗅周皮質間の相互作用 および 課題学習時における二次体性感覚野(S2)の相互作用を研究すれば、文脈情報としての刺激の処理や行動を生み出す二次体性感覚野(S2)の役割についてさらなる洞察を得るのに役立つだろう。

全体として、本研究は、文脈依存的な感覚処理過程における一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)の役割に対して、局所神経回路(local circuit)と長距離にわたる神経ネットワークを総合的に把握しようと試みているものであり、一次体性感覚野(S1)と二次体性感覚野(S2)の各領域が知覚および行動の形成とどのような関係があるのかについて、さらなる研究の深化を期待したい。

Ref:機能的結合(functional coupling / functional connectivity:脳の領域間の活動が正なり負なりに有意に相関している場合、その領域間は機能的に結合しているという。このつながりを機能的結合という)
Ref:ニーモニック(単語の頭文字や字数を利用したり、あるいは連想しやすい内容の文にしたりして記憶を助けるもの。記憶術)
Ref:シナプス(神経細胞同士の接点)
Ref:ハブ(多くの脳領域間を結合させる中心となる領域)

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