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2光子顕微鏡における超短パルスの利点

2018年 11月05日

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要旨:
2光子顕微鏡によって、退色のリスクや試料の損傷を最小限に抑えながら、従来の手法よりもより高い深度で生組織や生細胞のイメージングが可能となった。
Laser Quantum社のventeon ultraなどのような超短パルス・広帯域スペクトル帯域幅のフェムト秒レーザーは、励起効率を高めたり、広範囲に亘る蛍光体に対してレーザー光を直接当てることができたり、時間分解能が極めて高いといったように、その効果を最大限に発揮するために、パルス圧縮器やパルス特性評価器に容易に結合することができる。

導入:
多光子(または2光子)顕微鏡は、DenkとWebbらのグループによって1990年に考案されたイメージング技術であり、蛍光信号を得るために平板状の試料内部に空間的に集光させたレーザービームに含まれる2つの光子を同時に吸収することを前提としている。このレーザービームは、より鮮明な画像や高強度の光子束を実現するために、高強度かつ短パルスである必要があり、それ故に、同じ焦点領域で2つの光子を同時に吸収する確率が高まる(2010年Pestovらによって発表)。
このことは、試料の損傷を最小限に抑えるのに十分な低平均電力にて高いピークパワーを持ったパルスを生成するモードロック・フェムト秒レーザーを使用することで実現できる。このモードロック・フェムト秒レーザーから得られる超短パルスは、広帯域スペクトルを持つために、最も一般的な蛍光体を同時に励起することができ、従って波長チューニング調整の必要性がなくなる(2010年Pestovらによって発表)。

Laser Quantum社製venteon ultraは、パルス幅 サブ6フェムト秒の短パルス光を発生させ、240mW超の出力を発振し、400nm以上(半値全幅/FWHM)という他には類を見ない帯域幅を提供することで、上記すべての要件を上回っている。

2光子励起の場合はパルス幅に反比例することが多いため、その結果として非線形光学過程における数サイクルパルスの波長変換効率が向上し、生細胞への悪影響を低減する。
しかしながら、2光子顕微鏡で超短パルスを扱う際に、主な問題点となる点がひとつある。超短パルスのパルス幅が、顕微鏡を構成する光学素子によって時間的に伸長されてしまうことだ。 これは正の群速度分散(GVD)によるチャープ(周波数変調)として知られている。つまり、パルス幅の拡がりを補償しフーリエ限界パルス(最短のパルス幅)を得るために、超短パルスの周波数を予め負の群速度分散で変化(チャープ)させる必要がある。(従って非線形光学過程を利用した2光子顕微鏡には高いピークパワーが必要となる。)このように短パルス光に必要な負分散(チャープ)を得るには、Laser Quantum社製venteon DCM分散補償ミラーを用いて出力光を複数回反射させる方法がある。

光学顕微鏡用対物レンズの焦点位置でリアルタイムに超短パルスを測定し 予め負分散を与える(プリチャープ)ことは、難しい課題であろう。これを解決するのに適切な装置として、インライン式・コンパクト設計・容易な操作方法を特徴とするSphere Ultrafast Photonics社製のd-scanがある。この装置は、どんな設計の顕微鏡を使用してもパルス波形の最適化が可能となるように、(内蔵のventeon DCM分散補償ミラーペアを介して)超短パルスの同時測定と負分散を得ることができる。

実験装置のセットアップと測定結果

2光子顕微鏡技術では顕微鏡用対物レンズを使用するが、この対物レンズは約何千fs2という極めて大きな数値の正の群速度分散(GVD)量を有するので、それに応じて短パルス光に予め大きな量の負の分散を与えておく必要がある。これは非常に難しいが、venteon DCM分散補償ミラーペアを用いることで可能となる。

さらには、venteon ultraと特注のd-scanを組み合わせた簡単なセットアップで(図1a参照)、 対物レンズ(倍率63倍、開口数0.75)の焦点で非常に短い値である5.5fsまでパルス圧縮することが可能だ。(図1b参照)

図1a: Venteon ultra発振器、d-scan system、対物レンズペアによる実験セットアップ。
図1b: 63倍対物レンズを通して得られたパルスの時間的プロファイル(パルス幅:5.5fs ± 0.1fs、FWHM)

d-scanは、試料上のパルス幅を測定できるだけでなくスペクトルの位相情報を直接に取得することができるので、パルス圧縮器の適合性を分析するのに必要な情報が得られる。このことは、開口数が大きく3000fs2以上の群速度分散(GVD)量を有する対物レンズによる補償の際に特に重要である。この対物レンズのように群速度分散(GVD)量が3000fs2以上の場合は、試料面においてサブ7fsのパルス幅を実現するために最大4次まで補償する必要がある。100倍油浸対物レンズ(開口数1.15)を配置した場合のventeon ultraとd-scanの組み合わせた場合の一例を図2に示す。今回、約3600fs2の群速度分散(GVD)量を有する開口数の大きい対物レンズを用いてこの6.4fsという短いパルス幅を得ることができたのは一番大きな成果といえる。また、パルス幅の拡がりは、な位相の不一致によって引き起こされることがd-scanによってはっきりとわかる。

図2:測定されたd-scanトレース(左上)と位相回復されたd-scanトレース(左下)
測定されたスペクトル、青曲線と位相回復されたスペクトル、赤曲線(右上)
位相回復された時間的プロファイル、パルス幅:6.4fs ± 0.1f(s FWHM)(右下)

結論:
超高速レーザーは多くの用途で幅広く使用されており、その中でも2光子顕微鏡技術はとりわけ重要なツールだ。2光子顕微鏡技術は、特に高解像度でのイメージ画像を作り出し、生体組織深部を高感度に画像取得することが重要な生体医学の分野で応用されている。高品質な画像を取得するのに重要な決め手となるのは、可能な限りパルス幅の短いパルス(7fs以下)を用いることだ。これらの超高速パルスは求められる要求品質が非常に厳しく、超高速パルスをイメージングに使用する前にパルスの伝播特性を確実なものにするために制御する必要がある。また、どんな生体組織でも可能な限り高い分解能で損傷させることなく測定できることが非常に重要だ。Laser Quantums社製venteon ultraレーザーとSphere Ultrafast Photonics社製d-scan技術の組み合わせは、高解像度の2光子顕微鏡やコヒーレント反ストークスラマン散乱分光(CARS)と同様に、生物学的プロービング検査や生物学的イメージングのようなアプリケーションに対して新しい時代を切り拓いている。レーザーパルスの時間的プロファイルを低減すると解像度が上がり、(比較的長いパルスを使用する)時間的プロファイリング技術で撮影した画像とはより対照的であることが実証されている(2009年Dantusらによって発表)。特に、2光子顕微鏡は今後、かつてない高解像度で脳をリアルタイムにイメージングすることのできる神経変性疾患の病態研究に使用されるシステムとしても役立つだろう。

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