テクニカルノート

音響光学プログラマブル分散フィルタによるレーザーシステム群遅延時間分散補償

2019年 04月26日

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Pierre Tournois
トムソンCSF(現タレス)社(フランス・パリ)所属

論文誌Optics Communications第140巻 245-249頁に掲載(1997年8月1日号)
出版社:エルゼビア㈱

<要旨>
本論文では、光学的異方性を有する複屈折媒体で生じる音響光学相互作用を用いて、チャープ信号を生成し元の音響信号を復元させることが可能であることを実証的に示している。この音響信号を用いて、レーザーの長距離伝送における入力信号波形を歪ませ、伝送路内で群遅延時間分散を施すことができる。このような光デバイスを用いて実現した初の伝送路実験について報告する。
※ 本論文誌に掲載された論文の著作権は, 出版社:エルゼビア社・科学部門に帰属する。

1. はじめに
チャープパルス増幅(CPA)などのレーザー共振器やレーザーシステム内における群遅延時間分散により、フェムト秒パルスの時間幅ができるだけ短くなるように下限値を設定することができる。この分散を補償するには、通常、プリズム対、Gires-Tournois干渉計(GTI)型のミラー、分散ミラーのどれかをレーザー共振器内に用いる。これらは、結果的には1部の補償しかできず(1次の分散に限る)、プログラム制御はできない。

チャープパルス増幅(CPA)システムでは、パルス伸長器とパルス圧縮器が一緒に筐体に収められたワンボックスタイプの場合でも(すなわち、この2つの遅延時間の合計が周波数に対して一定の場合でも)、システム内の他の光学部品を用いて群遅延分散補償を施し、システムの性能を最適化させる。

本論文では、レーザー共振器及びチャープパルス増幅(CPA)システムにおいて群遅延時間分散を補償することができる音響光学プログラマブル分散フィルタ(AO-PDF)について解説する。この光学デバイスは、複屈折性を有する一軸性結晶(単軸結晶)中の光波の伝播を利用するが、この光波は常光線(これに対して偏光が光学軸に平行な場合は異常光線)と異常光線(これに対して偏光が光学軸に垂直な場合は常光線)の音響波による同軸、同一方向に伝播する結合性を有する。

音響波は、プログラム制御可能な位相誤差信号を伝搬する。この位相誤差信号は、常光線から異常光線に、又は異常光線から常光線に変換され、群遅延時間分散を補償する。

この音響光学プログラマブル分散フィルタは、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)、PbMoO4(モリブデン酸鉛)、TeO2(二酸化テルル)などの多くの結晶から形成することができ、バルク波(BAW)又は表面波(SAW)技術による動作も可能だ。

2. 音響光学プログラマブル分散フィルタ
\({{O}_{χ}}\)軸方向の光弾性効果による異方性媒質中での共線音響光学相互作用について考察する[1]。周波数 \({{ω}_{1}}\)、波数 \({{β}_{1}}\)をもつ入射光は、音響波との相互作用を通して周波数と波数 \(Κ\)をもち、回折を受ける。この非線形音響電気相互作用の関係式は、

\({{s}_{1}}({{ω}_{1}})exp[i({{ω}_{1}}t-{{β}_{1}}χ)] × {{S}_{ac}}(Ω)exp[i({{Ω}_{t}}-{{Κ}_{χ}})]
= {{S}_{2}}({{ω}_{2}})exp[i({{ω}_{2}}t-{{β}_{2}}χ)].\)  (1)

と表すことができる。この式の\({{S}_{1}}({{ω}_{1}})\), \({{S}_{ac}}(Ω)\), \({{S}_{2}}({{ω}_{2}})\) はそれぞれ、入射光の信号、音響信号、回折光の信号に対応する複雑なスペクトル振幅に該当し、入射光の信号の振幅と音響信号の振幅の「積」によって回折光の信号のスペクトル振幅を求めることができる。入射光のエネルギーが放出されると、以下の位相整合条件をほぼ満たす場合のみ、回折波が発生する。

\({{ω}_{2}} = {{ω}_{1}} + Ω. {{β}_{2}} = {{β}_{1}} + Κ\). (2) この条件において

\({{S}_{2}}({{ω}_{2}}) = {{S}_{1}}({{ω}_{t}}) × {{S}_{ac}}(Ω)\), (3) 又は

\({{s}_{2}} = (t-\frac{{\rm}{n}_{2}{x}}{c}) = {{s}_{1}} (t-\frac{{\rm}{n}_{1}{x}}{c}) ⊗ {{s}_{ac}}(t-\frac{{\rm}x}{v})\) , (4)

と表される。この式の\({{S}_{1}}(t)\), \({{S}_{ac}}(t)\), \({{S}_{2}}(t)\) はそれぞれ、入射光の信号、音響信号、回折光の信号に対応する複雑なスペクトル振幅に該当する。\({{n}_{1}}\)及び\({{n}_{2}}\)は入射波及び回折波が存在する光弾性材料(異方性の高い結晶)の光学指数、\(v\)は音響波速度、\(c\)は真空中の光速度を示す。

従って、非線形相互作用の高次項が(1)と比較して無視できる場合は、回折光の信号は入射光の信号と音響信号の畳み込み積分で表される。また\({{S}_{2}}(t)\) はインパルス応答\({{S}_{ac}}(t)\) を持つプログラマブルフィルタで\({{S}_{1}}(t)\) をフィルタリング演算した結果であると見なすことができる。

特殊な場合として、入射光の信号が広帯域インコヒーレント信号であり、音響信号が周波数純度の高い信号である場合、回折光の信号は周波数純度の高い信号となる。これは音響光学波長可変フィルタ(AOTF)の古典的な動作に対応する[2,3]

入射光の信号が超短パルス光であり、音響信号が帯域 \({{B}_{ac}}\)内において持続時間\({{T}_{ac}}\)の長いチャープ信号をもつパルス幅である場合、回折光の信号は帯域 \({{B}_{opt}}\) 内において持続時間 \({{T}_{opt}}\) の長いチャープ信号をもつパルス幅となり、音響パルスを時間的に画像化したものとなる。この新しい方式は、音響光学プログラマブル分散フィルタ(AO-PDF)と呼ばれる。音響信号と光信号との間の情報を式で表すと

\({{B}_{ac}}/Ω = {{B}_{opt}}/{{ω}_{1}}\)  及び
\({{B}_{ac}}{{T}_{ac}} = {{B}_{opt}}{{T}_{opt}}\)  となる。
さらに、数式 (2) を考慮に入れると、下記の式のようになる。

\({{n}_{2}}\frac{{\rm}{ω}_{2}}{c} = {{n}_{2}}\frac{{\rm}{ω}_{1}+{Ω}}{c} = {{n}_{1}} \frac{{\rm}{ω}_{t}}{c} + \frac{{\rm}Ω}{c}\) , (5)

音響光学プログラマブル分散フィルタの光周波数、音響周波数、帯域幅、パルス幅は

\(\frac{{\rm}{Ω}}{{ω}_{1}} = \frac{{\rm}{B}_{ac}}{{B}_{opt}} = \frac{{\rm}{T}_{opt}}{{T}_{ac}} = \frac{{\rm}{|{{n}_{2}}-{{n}_{1}}|v}}{c(1-{{n}_{2}}v/c)} = |{{n}_{2}} – {{n}_{1}}|\frac{{\rm}{v}}{c}. \)  (6)

と表される。また、音響信号における周波数変調の勾配と光信号における周波数変調の勾配の関係を式で表すと、

\(\frac{{\rm}{{B}_{ac}}}{{T}_{ac}} = {{(|{{n}_{2}}-{{n}_{1}}|\frac{{\rm}{v}}{c})}}^{2}\frac{{\rm}{{{B}_{opt}}}}{{T}_{opt}}. \)  (7)

となる。この畳み込み演算を実現している音響光学プログラマブル分散フィルタは、図1に示すように、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)又はモリブデン酸鉛(PbMoO4)等の材料を用いることができる。この装置を、長いパルス長さを持つチャープパルス(周波数の時間変化を引き起こしたパルス)を増幅するために設計したレーザー装置内に搭載することで、この中を伝搬するパルスの時間的分散を補償することができる。チャープパルス増幅(CPA)のレーザー装置[4]には、超短パルスを発生させるオシレータ、パルス幅を拡張させるパルスストレッチャー、増幅器、高エネルギーパルスを増幅する前の元のパルス幅まで再圧縮させるコンプレッサーが配置されている。しかしながら、ストレッチャー及びコンプレッサーから生成されたパルスが完全に位相整合を満たしている場合(すなわち群遅延時間分散の和が一定である場合)でさえ、レーザー装置内の増幅器が信号を分散するので、圧縮された信号は元の信号と同一ではない。

図1:共線音響光学プログラマブル分散フィルタ装置の構成図

AO Transducer: 音響光学トランスデューサ(変換器)
Output optical field: 出力パルス
Stretched pulse: スペクトルが拡げられたパルス
Brewster angle: ブリュースター角
Input optical field: 入力パルス
Ultrashort pulse: 超短パルス
Acoustic wave: 音響波

レーザー装置の出力における光信号を\(s(t)\)と定義すると、発振器からの入力信号が超短パルスである場合、\(s(t)\) はレーザー装置から発生するインパルス応答である。増幅器を含んだ一連の構成要素のそれぞれすべてが線形であると仮定すると、音響信号 \({{S}_{ac}}(-t)\) を発振器とパルスストレッチャーの間に配置された音響光学プログラマブル分散フィルタに伝搬させる場合(図2)、レーザー装置の出力部にある光信号は\({{s}_{2}}(-1)\)、つまりレーザー装置から発生するインパルス応答が時間反転した画像となる。このように、入力信号がレーザー装置内を伝搬している間にこの信号に予めプリディストーション(前置歪み)を与えることで、レーザー装置内の寄生発振による分散をすべて補償するので、出力信号は入力信号と同じになる。

増幅器が線形領域で動作をしていない場合、予めプリディストーション(前置歪み)を与えた音響光学プログラマブル分散フィルタへの入力信号は\(s(t)\) の時間軸を反転した画像ではなくなるが、レーザー装置から出射したパルスのパルス幅を測定する光相関計によってリアルタイムでの分析が可能となり、制約付き最適化アルゴリズムを実装することで閉ループにおいて、レーザー装置から発生するインパルス応答が時間反転した画像を得ることができる。

図2:音響光学プログラマブル分散フィルタ装置を含んだ
新しい構造のCPA(チャープパルス増幅)レーザーの配置図

Oscillator: 発振器
AO-PDF: 音響光学プログラマブル分散フィルタ
Stretcher: パルスストレッチャー
Amplifiers: 増幅器
Compressor: 圧縮器
Auto-correlator: 自己相関計
RF arbitrary function generator: RF信号発生器

音響光学プログラマブル分散フィルタに伝搬される音響パワーは、この分散フィルタが線形動作特性をもつ場合に評価できる。パルス幅\({{T}_{ac}}\)をもつパルス幅が長い音響パルスが、帯域幅\({{β}_{ac}}\)内で線形にチャープ(時間とともに周波数が線形に変化)している場合、帯域幅内の特定の周波数は下記の式で示されるパルス幅\({{T}_{f}}\)にわたって広がる[5]

\({{T}_{f}} = \frac{{\rm}{{T}_{ac}}}{\sqrt{{{B}_{ac}}{{T}_{ac}}}} = \sqrt{\frac{{\rm}{{T}_{ac}}}{{B}_{ac}}}. \)  (8)

単一周波数出力を得るための位相整合に対応するカップリング長\({{L}_{c}}\)は、下記の式によって、音響パワー\({{I}_{ac}}\)、伝搬方向における材料の音響光学性能指数\({{M}_{2}}\)及び真空中の波長の関数として求めることができる。

\({{L}_{c}} = \frac{{\rm}{λ}}{\sqrt{2{{M}_{2}}{{I}_{ac}}}}. \)  (9)

入射波が回折波へと完全にシフトするには、結晶に対する入射波と回折波が重なり、その長さ(カップリング長\({{L}_{c}}\))が帯域幅 \({{β}_{ac}}\)の特定の音響周波数によって、等しくなる必要がある。あるいは同じことであるが、下記の2つの式でも導くことができる。

\( {{L}_{c}} = \frac{{\rm}{λ}}{\sqrt{2{{M}_{2}}{{I}_{ac}}}} = v\sqrt{\frac{{\rm}{{{T}_{ac}}}}{{B}_{ac}}} .\)  (10)

\( {{I}_{ac}} = \frac{{\rm}{{{λ}^{2}}}}{2{{M}_{2}}{{v}^{2}}}(\frac{{\rm}{{{B}_{ac}}}}{{T}_{ac}}) = \frac{{\rm}{ {{λ}^{2}} {{ ( {{n}_{2}} – {{n}_{1}} )}^{2}} }} {2{{M}_{2}}{{c}^{2}}}(\frac{{\rm}{{{B}_{opt}}}}{{T}_{opt}}) . \)  (11)

この場合、性能指数\({{M}_{2}}\)を最大値とする結晶及び伝播方向を選択するのが望ましい。例として、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)結晶内部における光の伝播方向がY軸でX軸偏波の音響波が横波の場合、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)内部における光の伝播方向がX軸で音響波が縦波の場合、PbMoO4(モリブデン酸鉛)結晶内部における光の伝播方向がC軸で音響波が縦波の場合の関連するパラメータの値を表1に示す。

表1.音響光学プログラマブル分散フィルタに用いる材料の詳細 λ=0.8μm

  V(音速)
(103m/s)
(n2sinθ2–n1sinθ1)
v/c(x10-5)
Fac(周波数)
(MHz)
M2(ビーム伝搬率)
(x10-5s3/kg)
λ2/2M2v2
(波長/エネルギー)
(x10-16kg/s)
減衰
(dB/μs・GHz2)
Collinearタイプ・LiNbO3結晶
光軸はc軸(=z軸)
せん断波(横波)の
音響波
Y軸伝搬、X軸偏波
4 0.120 450 9.82 2.04 1
縦波の音響波
X軸伝搬
6.57 0.197 739 7 1.06 1
Collinearタイプ・PbMoO4結晶
縦波の音響波
C軸伝搬
3.75 0.156 585 36 0.632 6.3
Non-collinearタイプ・TeO2結晶
せん断波(横波)の
音響波
(図3参照)
0.68 0.0187 70 790 0.876 18

3. 初期実験
音響光学プログラマブル分散フィルタの動作を実証するために初期実験を設計した。この実験で、非常に遅い横波の音速(v=680m/s)をもつTeO2(二酸化テルル)結晶を用いた。TeO2結晶は性能指数\({{M}_{2}}\)が非常に高いため使用した(M2=790 × 10-15s3/kg)。しかし、残念ながらTeO2結晶はNon-collinearタイプの構造を持つので共線的な(Collinear)相互作用を起こすことはできない。そこで我々は、周波数又は波長に対して回折波の角分散を最小化するために、偏光の向きが入射面と直交する入射波と、偏光の向きが入射面内にある回折波が、準共線的な構造をとる配置を選択した。

図3:Non-collinearタイプのTeO2(二酸化テルル)結晶による音響光学プログラマブル分散フィルタを用いた実験系の構成

これらの条件下で、式(6)と式(7)の関係は次式のようになる。

\( \frac{{\rm}{Ω}}{{ω}_{1}} = \frac{{\rm}{{B}_{ac}}}{{B}_{opt}} = \frac{{\rm}{{T}_{opt}}}{{T}_{ac}} = ({{n}_{2}}sin{{θ}_{2}}-{{n}_{1}}sin{{θ}_{1}})\frac{{\rm}v}c . \)

\( \frac{{\rm}{{B}_{ac}}}{{T}_{ac}} = {{(({{n}_{2}}sin{{θ}_{2}}-{{n}_{1}}sin{{θ}_{1}}) \frac{{\rm}v}c)}^{2}}\frac{{\rm}{{B}_{opt}}}{{T}_{opt}}. \)  (12)

ここで、\({{θ}_{1}}\)及び\({{θ}_{2}}\)はそれぞれ\(π/2-{{{{θ}^{‘}}}_{1}}\)及び\(π/2-{{{{θ}^{‘}}}_{2}}\)であり、この\({{{{θ}^{‘}}}_{1}}\)及び\({{{{θ}^{‘}}}_{2}}\)はそれぞれベクトル\(K\)とベクトル\({{K}_{1}}\)の間の角度 及び ベクトル\(K\)とベクトル\({{K}_{2}}\)の間の角度である。\({{θ}_{1}}=8.35°\), \({{θ}_{2}}=10.44°\), \({{n}_{1}}=2.2245\), \({{n}_{2}}=2.2380\), \(v=680m/s\)を代入すると\(λ=0.8μm\)になり、従って

\(({{n}_{2}}{{sinθ}_{2}}-{{n}_{1}}{{sinθ}_{1}})v/c = 0.0187 x {{10}^{-5}} \)  又は

\({{f}_{ac}} = Ω/2π = 70 MHz \)  及び

\({{B}_{ac}}/{{T}_{ac}} = 3.497 x {{10}^{-14}} {{B}_{opt}}/{{T}_{opt}} \)  となる。

TeO2(二酸化テルル)結晶は周波数の関数として与えられる分散性媒質であるので、音響波を全く伝搬させずに超短パルスを装置に注入する場合、出力パルスはチャープ(周波数が時間変化)され、時間幅が長くなる。パルス幅は結晶Lの長さに依存し、その長さは我々が実験で用いている結晶の長さである2.4cmに等しい。さらに、パルス幅は超短パルス帯域幅内の周波数によって屈折率\({{n}_{1}}\)及び\({{n}_{2}}\)が変化することにも依存している。

一次分散の場合、線形性を持ち、\({{T}_{opt}} = 330fs\)という長いパルス幅(図4b参照)を実験で得た。このパルスは帯域幅\({{B}_{opt}} = 3.9THz(Δλ = 8.3nm)\)内でチャープされている。すなわち、入射パルスのパルス幅が112fsの場合、\({{B}_{opt}}/{{T}_{opt}} = 11.8THz/ps\)という式が成り立つ(図4a参照)。

このパルス幅の長いパルスは、音響光学プログラマブル分散フィルタに音響パルスを伝搬させることで、再圧縮しなければならない。この音響パルスは、帯域幅\({{B}_{ac}} = 1.87 x {{10}^{-7}}{{B}_{opt}} = 0.73MHz\)内で線形チャープしており、その傾きは\({{B}_{ac}}/{{T}_{ac}} = 3.5 x {{10}^{-14}}{{B}_{opt}}/{{T}_{opt}} = 0.4MHz/μs\)、音響パワーは約0.35W/mm2である。図4cに、実験結果を示す。音響パルスの傾きが0.35MHz/μsになるように、330fs幅パルスが元のパルス幅にほぼ戻って圧縮されていることがわかり、理論的予測とよく一致する。

図4:帯域幅3.9THzにおける330fs幅パルスを分散補償した際の実験結果


図4(a)発振器から出力されるパルス(Sech2関数でフィッティングしたときの半値全幅は112fs)の自己相関波形

図4(b)音響信号を用いていない場合の音響光学プログラマブル分散フィルタから出力されるパルス(Sech2関数でフィッティングしたときの半値全幅は330fs)の自己相関波形

図4(c)音響信号を用いた場合の音響光学プログラマブル分散フィルタから出力されるパルス(Sech2関数でフィッティングしたときの半値全幅は116fs)の自己相関波形

図5:帯域幅6.3THzにおける508fs幅パルスを分散補償した際の実験結果


図5(a)発振器から出力されるパルス(Sech2関数でフィッティングしたときの半値全幅は108fs)の自己相関波形

図5(b)音響信号を用いていない場合の音響光学プログラマブル分散フィルタから出力されるパルス(Sech2関数でフィッティングしたときの半値全幅は508fs)の自己相関波形

図5(c)音響信号を用いた場合の音響光学プログラマブル分散フィルタから出力されるパルス(Sech2関数でフィッティングしたときの半値全幅は150fs)の自己相関波形

発振器で発生させた70fs幅パルスを、分散ミラーを用いた分散によって出力時に108fsまで引き延ばし(図5a参照)、帯域幅がより広帯域化 (\({{B}_{opt}} = 6.3THz\), 又は\(Δλ = 13.4nm\))すると、508fs幅パルスを得る(図5b参照)が、直線性のランプ信号を生成するランプ関数を用いてこのパルスを再圧縮した後のパルス幅は160fsにしかならない(図5c参照)。その場合、より広い帯域幅に対応するために線形チャープの分散よりも高次の分散を補償しなければならなくなるため、パルスの再圧縮を完全にすることができず、これは音響系の線形チャープ信号では分散補償を施すことができない。より高次の分散補償をするには、音響系の非線形チャープ信号を用いる必要がある。パルスの再圧縮が完全でないのは、圧縮された信号から低エネルギーのプレパルス及びポストパルスが生じることにも通じる。

4. おわりに
本論文では、入射波と音響波をコリニア(共線的)及び同一方向にカップリングさせる音響光学プログラマブル分散フィルタを用いて、レーザーシステムにおける群遅延時間分散補償の原理を実証した。音響光学プログラマブル分散フィルタは、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)結晶又はPbMoO4(モリブデン酸鉛)結晶内部を伝搬する入射波及び音響波の波数ベクトルの完全に共線的な相互作用を利用することで、チャープパルス増幅(CPA)の一連の構成要素をもつレーザー装置において、本実験で使用したTeO2(二酸化テルル)結晶を用いたデバイスよりもさらに優れた群遅延時間分散補償を可能にし、さらに、フェムト秒のフーリエ変換限界パルスを得ることができるような新しいレーザーシステムの構造も実現することになるだろう。

<謝辞>
本論文を作成するにあたり、Thompson-BMI社(在フランス, オルセー)のF. Estable氏及びF.Falcoz氏、Thompson-Microsonics社(在フランス, ソフィア・アンティポリス)のJ.Desbois氏、M.Chomiki氏、J.C.Poncot氏、Thomson CSF(現タレス)社のJ.P. Huignard氏からご協力を頂き、有益な議論を賜りましたこと、深く感謝致します。

<参考文献>

[1] R.W. Dixon, IEEE Journal of Quantum Electronics 第3巻85p. (1967)

[2] S.E. Harris, R.W. Wallace, Journal of the Optical Society of America A第59巻744p. (1969)

[3] I.C. Chang,『音響光学可変フィルター』概要 論文誌Proceedings of SPIE(1976)

[4] D. Strickland, G. Mourou, Optics Communications誌, 第55巻447p. (1985)

[5] A.W. Rihaczek,『高分解能レーダーの原理』(1969)
出版社:McGraw-Hill社、在米国 ニューヨーク市

[6] A. Yariv, P. Yeh『結晶内の光波の伝播』(1984)
出版社:John Wiley & Sons社、在米国 ニューヨーク市

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